ドキュメンタリー映画「燃えあがる女性記者たち」
リントゥ・トーマス&スシュミト・ゴーシュ監督インタビュー
2023年9月30日から大阪・第七芸術劇場で公開
インド北部のウッタル・ブラデーシュ州(人口2億人)にあるダリトの女性たちだけで立ち上げた新聞社「カバル・ラハリヤ」(ニュースの波という意味)の女性記者たちの取材活動を追いかけたインドのドキュメンタリー映画「燃えあがる女性記者たち」(きろくびと配給)が日本で公開される。ダリトとはカースト制度の外側・最下層に置かれて「不可触民」といわれる「抑圧された人たち」を指す。現在、カーストは法律で禁止されているが差別は根強く残っているという。
インドは映画製作本数が世界一多い映画大国で、「大地のうた」(1955年)のサタジット・レイ監督を輩出するなど映画ファンに親しまれている。最近、人口が中国を抜いて世界一(14億2860万人)になって注目を集めている。そのインドでノンフィクション映画製作会社Black Ticket Filmsを共同で設立しているリントゥ・トーマス(40)、スシュミト・ゴーシュ(37)の2人が2021年に発表した長編ドキュメンタリー映画第1作。アメリカのサンダンス映画祭や日本の山形ドキュメンタリー映画祭など多くの国際映画祭で受賞した注目作である。
「僕は14年前から映画に関わっているが、以前は経営学を学んでいた。チェ・ゲバラの若いときを描いた『モーターサイクル・ダイアリーズ』を見て、バイクを買い旅に出た。それをきっかけに映像の世界に興味を持ちこの世界に入った。そこでゴーシュさんと出会って一緒に仕事をしている。6年前に結婚した」(トーマスさん)
「トーマスさんと考えが違うこともあったが、同じ考えも多かった。2人で作品を作るとき脚本は私が書き、彼は映像担当でカメラも握っている。一緒に考えながら撮影するが、意見が分かれるときもあり、撮影後の編集の段階で喧嘩になることもあった。音楽も趣味が違うが、男性は視野が広く、女性は細かいところに目がいきやすいという点でうまく連携していると思う」(ゴーシュさん)
映画の主人公はカバル・ラハリヤ紙で28人の女性記者チームを率いる主任記者、ミーラさん。採石場で働いていた若手のスニータ記者、取材の仕事に悩むシャームカリ記者がミーラさんと行動を共にする。
「女性記者たちは最初読み書きもできないところからスタート。新聞社の開発プロジェクトの中で勉強し新聞は2002年に創刊された。私がこの存在を知ったのは2016年で、紙媒体からデジタル配信に切り替わる頃で、記者はペンをスマートホンに持ち替えて取材をするようになった。ミーラさんは夫と子ども2人がおり、仕事が忙しく家庭の仕事が留守になりがちで夫に文句を言われることが多い。それでもミーラさんは笑顔で仕事に出かけたくましい」(ゴーシュさん)
「撮影の最初は紙媒体からデジタルに切り替わることで記者たちが戸惑う会議のシーンから始めた。それから約5年、デリーからウッタル・プラデーシュ州にある新聞社に通って撮影。モディ首相になって国に変化が起き、近年分断が加速してきて、記者たちの対応も変化し、記者自身もジャーナリストとして成長する。またモディ首相のヒンドゥーナショナリズムの自警団で出発する青年を登場させて女性記者の視点と対峙させて描いた。そこに希望を諦めない勇気と、闘うことの大事さを見た」(トーマスさん)
ミーラ記者たちが、レイプ被害者のために事件を取り上げない警察に抗議に行く場面や、地元採石場で起きるマフィアの不法介入行為を訴えるシーンがある。「小さな町の出来事であるが、権力者たちは都会でも同じ事をしているし、ジャーナリストが闘う相手としても共通。同意しない人にどう同意してもらうか。カーストはどこにもある。その意味で、カバル・ラハリヤ紙の追求するテーマは世界共通といえる。沈黙の前に、真実の声をあげよう。映画の撮影は2年のつもりだったが実際5年かかったのは、分断された世界で新たな可能性を見いだす力、そして女性の声が持つしなやかで強い力を掘り下げたかったからです」(2人)
写真は「女性記者の視点になって追いかけた」と話すリントゥ・トーマス(左)、スシュミト・ゴーシュの両監督=大阪・十三の第七芸術劇場

【註)この作品の映画評は岩永久美さんがアップしています。あわせてご一読ください

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