映画「エリザベート 1878」
2023年8月25日から全国ロードショー

「エリザベート」といえば日本では宝塚歌劇や東宝ミュージカルで人気の舞台になっている。オーストリアの皇后エリザベートの物語で、影のように存在するトート(死者)と繰り広げるラブスストーリー。映画では地元オーストリアで新人のロミー・シュナイダーが主演した「プリンセス・シシー」3部作(1955〜57年)が作られ大ヒット。その後シュナイダーは大女優になるが43歳で没した美人女優である。
今作は地元のオーストリアの女性監督、マリー・クロイツァー(45)がルクセンブルク出身のヴィッキー・クリープス(39)と組んで発表し、昨年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門最優秀演技賞ほか世界的に高い評価を受けた。16歳でオーストリア皇后になり波乱の人生を送るエリザベートを描いているが、タイトルにあるように「1878年」の1年、つまり彼女が40歳の時の話になっている。
エリザベートは皇帝フランツ・ヨーゼフ(フロリアン・タイヒトマイスター)の妻として務め、3人の子をもうけた母親であり、ウイーンの宮廷生活に少し疲れを感じているが、パーティなど社交場ではいつも「煌びやかな」対象でありだれからも美しく見られている存在だ。そのため彼女は毎日コルセットでウエストを締め付け、長く伸びた美しい髪を女官に梳かせ、筋トレに励んでいる。
そんな日々が永く続くはずがない。趣味の乗馬で知り合った馬術家の男や、フランスの発明家の男と束の間の時間を過ごし、タバコや麻薬をたしなみ背中に小さな錨のタトゥーを彫ったりする。長女を2歳で亡くし、長男は父より母の味方だがどこかそっけなく、下の娘は心配げに母を見つめるだけ。エリザベートが宮廷を飛び出す生活を考えるのは仕方がないことではないか。夫は元々「君は美しく存在していてくれればいい」と飾りの皇后を望んでいるのだから。
エリザベートはある夜、ベッドでベールをめくり裸の自分を夫に見せつける。それはエリザベートの夫への抵抗と同時に、女としての新しい生活の始めを示すもののような気がする。演じたクリープスは「エリザベートが当時できなかったことすべてを実現するチャンスを彼女に与えた」と語っている。クロイツァー監督は「ルールを知った上でルールを破ること」が重要だったとクリープスと声を合わせる。
昨年のイギリス映画「スペンサー ダイアナの決意」や、フランス映画「燃ゆる女の肖像」(2019年)のヒロインに繋がっている。
エリザベートは1989年、彼女が60歳の時イタリアの無政府主義者に刺殺された。この映画は40から60の晩年20年を集約した1年を描いている。「プリンセス・シシー」3部作の後、ルキノ・ヴィスコンティ監督のイタリア映画「ルートヴィヒ」(72年)でもエリザベートを演じたロミー・シュナイダーにこの映画を見せたかった。トランスフォーマー、ミモザフィルムズ配給。
写真は「エリザベート 1878」のヴィッキー・クリープス(C)Felix Vratny
※この作品については、辻則彦も感想をアップしています。併せて、ご一読ください。

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