「バービー」

劇場公開日 8月11日

「レディー・バード」「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」のグレタ・ガーウィグ監督が次に題材にしたのは、バービー人形。高い知名度を持つ女の子の着せ替え人形だ。物語は人形達が住むバービーランドで始まる。主人公バービーは何不自由ない毎日を送っていたが、ある日、体に異変が起きて、その原因を突き止めるため人間の世界へ向かう。バービーが住んでいるのは女性にとってハッピーなバービーランド。そこからリアルなアメリカ社会にやって来たバービーはショックを受ける。
バービーを演じるマーゴット・ロビーは、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」など人間ドラマからDCコミックス原作の「スーサイド・スクワッド」までこなす売れっ子俳優。「プロミシング・ヤング・ウーマン」のプロデューサーでもあり、今回は主演とプロデュースを兼ねている。「プロミシング・ヤング・ウーマン」は、女性を主人公にした復讐劇だが、男女の対立構造を取り入れたドラマの中に、まともな男性が1人も出て来ない作品だった。「バービー」にも男女の対立構造はあるが、まともな男性を1人登場させている。映画の観客には男性も多いと考えてのことだろう。
1950年代の発売当初、小さな女の子が遊ぶために作られたバービー人形は、女性はいずれ家庭に入って家族の世話をするもの、という風潮の中で市場に出回った。そのためには男性に好まれる外見でないと、と8頭身の容姿にも磨きがかけられたが、そんなバービー人形の世界にも時代の風が吹き込んで、様々な変化が加えられて行った。
今回の映画化でバービー人形には、女性解放のイメージが加えられたが、小さな子供が見ることも想定しているので、濃厚な政治思想というより、愛すべき風刺コメディという印象だ。
アメリカでは本作は、理論物理学者・ロバート・オッペンハイマーを題材にした映画と同日に公開された。SNS上で「バービー」の登場人物たちの背景にキノコ雲を描くなどの悪質なファンアートが多数投稿され物議を醸した。本作の底に流れるフェミニズムは、人権と切っても切り離せないものだけにこの一件はやりきれない。公開中の「シモーヌ フランスに最も愛された政治家」の中でのシモーヌ・ヴェイユは、「女性の権利委員会」を設置した人物として知られているが、フランス人女性の権利だけにとどまることはなく、広い視野を持って人権問題にあたっているところに説得力があった。グレタ・ガーウィグ監督は誰もが認める実力者。今回の〝事件〟を機に現代史を研究し、今後の作品で表現してくれるんじゃないかな。と密かな期待がある。
(2023/アメリカ/112分)
配給 ワーナー・ブラザース映画
⒞2023 Warner Bros.Ent.All Rights Reserved.
※この映画については、辻則彦もアップしています。併せてご一読ください

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