第8回 あべの歌舞伎「晴の会」
「肥後駒下駄」
2023年8月3日~6日
近鉄アート館

檜の大舞台ではなく、三方を客席に囲まれた空間が、彼らの「晴れ舞台」。大阪松竹座、南座などでの歌舞伎公演でみんな〈見慣れた役者たち〉だが、これだけ主要な役で、しかも多くの場面に出演する機会はなかなかない。1997年から6年間開塾した松竹・上方歌舞伎塾。いわゆる梨園ではない人々が入塾して、片岡秀太郎らの指導のもと、歌舞伎役者としての素養を鍛錬した。その第1期生の片岡松十郎、片岡千壽、片岡千次郎を中心に、2015年に結成されたのが「晴(そら)の会」。近鉄百貨店(大阪市阿倍野区)内にある近鉄アート館で。2021年(コロナ禍のため)を除いて、毎年夏に上演を重ねていて、今回が第8回。
今回に選んだ演目は、「肥後駒下駄(ひごのこまげた)」。
「本名題「敵討肥後駒下駄」四代将軍時代の事跡が、講談に仕組まれ、歌舞伎にとり入れたのは勝蔵で、明治十年頃の作。小芝居向きの脚本である。「<見どころ〉 初代藤治郎の売り出しに演じられ、昭和初期まではさかんに練り返えされていた。戦後は仁左衛門が演じたくらいではないか。とにかく大衆劇の娯楽味濃厚な長篇、血染めの下駄をめぐって恨みをそうと、人間一心になって報われるという話に加えて家の娘に惚れられる機嫌のいい芝居だ」。と「歌舞伎名作事典」(演劇出版社)にある。1952年に十三世片岡仁左衛門によって中座で上演され、あべの歌舞伎では2019年にからの再演となる。娯楽作が多かった「小芝居向き」とあって、あらすじが比較的わかりやすく、しかも亀屋東斎のペンネームで台本改訂も担当している片岡千次郎が、講談師にも扮して人間関係と時間経過を解説することで、よけいにわかりやくなった。
近鉄アート館は、客席が可動式になっていて、自由に劇場空間を生み出せるのだが、「あべの歌舞伎」は、三方を客席で囲んだなかで、上演されるのが大きな特徴。ある意味「衆人環視」のなかとあって、演じる側には、よりいっそう周囲に気を配りながら…という課題もあるし、観る側にとっては、ふだんの舞台では味わえない視野からということもあって、より臨場感が増した。また、塀を登る場面や木で組まれた棚を使った殺陣は、平面的になりがちだったのを「縦の空間」で見せる効果があった。
67年ぶりの再演ということで、仁左衛門らの舞台は観られないが、先述の「と「歌舞伎名作事典」に掲載されていた写真によると、源次郎と縫之介が一緒に場面に並んでいる。今回はその2人を片岡松十郎が演じているので、〝揃い踏み〟は不可能。欲を言えば、この2人の対決も観たい気もした。
監修=片岡仁左衛門 演出=山村友五郎 出演=片岡松十郎、片岡千壽、片岡千次郎 片岡りき彌、中村翫政、片岡千太郎、 片岡佑次郎、片岡當史弥、片岡愛治郎 片岡當十郎

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