2023年7月29日13時の回、観劇
大阪四季劇場

大阪公演千秋楽まで1か月を切った大阪公演を約1年半ぶりに観劇した。前回の感想は2022年3月21日にアップしているので、「前説」は割愛して、本論へ。
いい意味で、けっこう白紙に近い心境で観ることができたので、熱心なファンではなく少しだけ舞台やミュージカル好き、それほどでもなく知人に誘われて劇場に足を運んだ人は、「こうした楽しむのだなあ」という気持ちを味わったのだ。というのは、ある時期の10年ほどは四季の取材を精力的に行っていて、会報誌「ラ・アルプ」やプログラム執筆のための取材で、四季芸術センター(横浜市青葉区)にもひんぱんに通い、浅利慶太代表(演出家)をはじめスタッフ、俳優とも面識ができた。そういった経緯から、初代のファントム(オペラ座の怪人)、クリスティーヌの野村玲子、ラウルの山口祐一郎らは、もちろんのこと舞台上で彼ら彼女らが演じていること「認識」しつつ観るようになった。近年までそういった環境で観劇を重ねてきた。しかし、浅利氏も亡くなり(2018年7月13日没)、俳優たちが退団などで移り変わっていくなか、以前ほど変化に〝ついていけなく〟なっているのが現状。
そんななかでの今回の観劇。自分でも驚いたのが、オープニングでコーラスガールのクリスティーヌ(牧喜美子)が主役に抜擢される瞬間。これまでなら、アンサンブルのなかにいるクリスティーヌを見つけて注視していたのだが、今回は「確かクリスティーヌは黒髪だから…」と探している自分がいた。そうしたアンサンブルの中からいきなり指名された女性が、「Think of Me」を歌い上げ、最後には超ハイトーンまで披露する! この意表をつく展開に、改めて、この作品の見事な〈つかみ〉を再認識することができた。
幕間にロビーで吉田智誉樹・四季社長にそんなことを話したところ、「もともと、そんな意外性から始まる作品なのですから…」といったような言葉が返ってきた。そこで「ノン・スターシステム」という劇団の特徴を思い返すことになった。最近、宝塚歌劇団でコロナに罹患する生徒が続出、「休演」が相次ぐことについて、関係者が「代役公演の可能性」に言及したことで、ファンたちの物議をかもした。こんな騒動は「スター・システム」を突き進み宝塚ならではのこと。「代役公演」ではなく、「その時のベストメンバーをキャスティングする」を標榜し、「ノン・スターシステム」を貫く四季とは一線を画している。
同じようにファントム(清水大星)、ラウル(岸佳宏)ら、他の出演者についても、俳優個人のバックボーンなどとは無関係に、その役に「没頭」して観ることができた。タイトルロールは言うまでもなく、ファントム。スタイリッシュな雰囲気から、抑制のきいたキャラクターにも思えるが、クリスティーヌとラウルの恋を見続けるなかで、その抑制がきかなくなり、わがままな幼児性ともいえる顔をのぞかせる、今回は、その両面がくっきりと出ているように見えた。最後にクリスティーヌとラウルがボート上で歌いながら去っていくのを、ファントムが見つめるシーンはなんとも残酷で哀しく、悲しい。勝手に見慣れたつもりだった「オペラ座の怪人」だったが、新鮮だった。

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