森達也監督に聞く

映画「福田村事件」

2023年9月1日からシネ・リーブル梅田、第七芸術劇場、MOVIX堺、翌2日からシネ・ヌーヴォで公開*

関東大震災が起きた1923年9月1日から5日後の6日、千葉県東葛飾群福田村(現・野田市)で惨劇が起きた。この実話に基づいた群像劇「福田村事件」(太秦配給)が完成。オウム真理教の信者を被写体にしたドキュメンタリー映画「A」(97年)「A2」(2001年)などで知られる森達也監督(67)が初めて劇映画のメガホンを取った新作。「知られざる事件の実相と、加害者を描きたくて」という森監督に話を聞いた。

関東大震災で東京が大混乱する中、流言飛語が飛び交い不安と恐怖が錯綜しいつしか矛先は社会主義者や朝鮮人に向けられていく。福田村事件は、そこに住む自警団を含む100人以上の村人たちによって、香川から訪れた薬売りの行商団15人が襲われ、幼児、妊婦を含む9人が殺された惨劇のこと。

「この事件を知る人はほとんどいない。みんなが目を背けてきた。オウムの映画を撮っているころ、施設に入って個々の信者たちは穏やかで優しかった。でも組織として凶悪な事件を起こした。人間とはどういう生き物なのか。その時、野田市で福田村事件の慰霊碑を作るという小さな新聞記事を読み、当時テレビディレクターだった僕は各局の報道番組にプレゼンしたが断られた。あれから20年経ってしまった」

「事件の背景は震災だけでなく、被差別部落問題、朝鮮人虐殺という2つの要件が重なり、亀戸事件、甘粕事件などが前後した混乱期。香川の薬行商団の人たちが話す讃岐弁が朝鮮語に似ていたことが事件勃発の一つの要因というが、誰がどう行動し、殺人に発展したのか。その辺をスリリングに描いたので物事が起きるプロセスとして見てほしい。俳優は元教師の井浦新さんと田中麗奈さんの夫婦をはじめ村長の豊原功補さん、村人の東出昌大さん、コムアイさん、水道橋博士さんなどが熱演してくださった」

ほかに永山瑛太、ピエール瀧、柄本明、松浦祐也、カトウシンスケらが共演。「史実のエッセンスを損なわないように、メディァの視点として女性記者(木竜麻生)の目線を入れた。集団と個というテーマは僕のライフワークでもあり、現代の戦争、コロナ禍などあらゆるものにつながる」。スタッフは脚本に荒井晴彦、井上淳一、佐伯俊道、プロデューサ—に井上淳一、片嶋一貴という旧若松孝二監督組。森監督は「僕一人、転校生で参加。葛藤はあったが、いい作品に仕上がった」と満足げ。統括プロデューサーは台湾映画「セデック・バレ」を配給した太秦の小林三四郎。

森監督は立教大学時代から映研で劇映画監督志望。「次はホラー映画にもチャレンジしたい」

写真は「念願の企画が劇映画で実現した」と話す森達也監督=大阪・十三の第七芸術劇場

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