ベール脱ぐ、母娘の秘密

2023年8月4日から、シネ・リーブル梅田、京都シネマ、シネ・リーブル神戸

俳優・歌手のシャルロット・ゲンズブールが、母親のジェーン・バーキンを撮影し、監督デビューを果たしたドキュメンタリー映画。と言っても芸能人の仕事と人生を追った作品というより、親子関係に焦点を当てたものだ。
ジェーン・バーキンと、歌手・映画監督のセルジュ・ゲンズブールとの間に生まれたシャルロット・ゲンズブールは、子役として映画デビューした後、瞬く間にスターになった。両親が早くに離婚し、父との絆が強かったこともあって、シャルロットは母とはちょっと距離を感じながら育ったと言う。加えて、異父姉ケイトの死が2人の心に重くのしかかっていた。
作品は、俳優として歌手として著名な母・ジェーンの、東京公演から始まる。と言っても、シャルロットのカメラは控えめで、舞台袖やホテルでのジェーンを、どこか遠慮がちに撮影している。どこに自分のカメラを据えたらいいのか、何を話せばいいのか、決めかねている印象だ。その戸惑いは、シャルロットが母に対して抱えてきた感情の暗喩でもある。初めのうち緊張感のあった画が、柔らかいトーンに代わっていくのは、シャルロットの娘・ジョーが2人の間に入って来るシーンからだ。小さくてかわいいジョーの無邪気さが、シャルロットとジェーンの壁を取り払う。
本作は芸能一家の、いわば特殊な話であるのと同時に、離婚家庭の親子関係を描いた作品でもある。シャルロットはインタビューの場面でジェーンから、事実婚も含めた3度の結婚の話を、巧妙に聞き出していく。自分は母から愛されていたのか。異父姉妹と自分との違いは何なのか。シャルロットが自分自身の立ち位置を、どん欲に確認していく姿は、彼女が3姉妹の1人を演じた「ブッシュ・ド・ノエル」の孤独な娘を彷彿とさせた。
自問するシャルロットは、スターではなく〝ただの人〟になり、カメラを向けられる対象としてのジェーンも、芸能界のカリスマではなくただの人になる。中でもシャルロットが、歳を重ねたバーキンの、皺のある手を愛おしげに撮っているのは印象的だ。娘にとって母の老いは、自分の未来を映す手がかりなのである。
孫娘ジョーの前では、ひたすら優しいお婆ちゃん。そしてジェーンは、シャルロットの母親をとっくに卒業しているにもかかわらず、もう一度母親を演じてくれる。本作は、エンターティナーとして一時代を築いたジェーン・バーキンが、娘のために一肌脱いだ作品なのだ。親子としては遠慮や気兼ねのあった母と娘。しかし2人は、この仕事を通して親友になった。いや、これから人生最良の友になる途上に居るのかもしれない。
(2021/フランス/92分)
配給 リアリーライクフィルムズ

⒞2021 NOLITA CINEMA-DEADLY VALENTINE PUBLISHING/ReallyLikeFilms

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