「糸井版 摂州合邦辻(いといばん・せっしゅうがっぽうがつじ)」
2023年7月1日
滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール中ホール

歌舞伎や文楽に親しみを抱く人なら、この演目を何度か観てはいるだろうが、題名の「読み」を含めて、あまりポピュラーではない演目。病を患う主人公の俊徳丸とその周りの人々の愛、その真逆の偏見というのも、現在では共感しがたい部分もあって、上演回数も多くない。そういった意味でも、木ノ下歌舞伎によるこの作品は、予見なく味わるものといえるだろう。木ノ下裕一(監修・補綴・上演台本)、糸井幸之介(上演台本・演出・音楽)によって、古典芸能のエッセンスを尊重しながら、現代にも共感できる演劇にする木ノ下歌舞伎の中でも代表作といわれるもので今回は3度目の上演。これまで評判を聞いていながら、観ることができたていなかったので、待望の機会になった。
何本かの太い木の柱が縦と横に設置された舞台。それらが場面によって、構造を変えていき、繰り広げられている場所、設定が想像できる巧みな舞台美術。俳優たちも時にはエネルギッシュに想いをぶつけるのだが、活舌も明瞭。さらに、ミュージカルさながらに歌う場面もあるが、歌詞の字幕が映し出され、伝えようとする内容がわかりやすいのもいい。
「原点」では義太夫節と太棹三味線で奏でるところを、バイオリンとトランペットという洋楽器を駆使して盛り上がる。古典を現代劇に置き換えるなど大胆な変容があるのだが、けっして奇をてらっているわけではなく、人間の情感を伝わりやすい方法を模索している。
〈あらすじ〉
大名・高安家の跡取りである俊徳丸は、才能と容姿に恵まれたがゆえに異母兄弟の次郎丸から疎まれ、継母の玉手御前からは許されぬ恋慕の情を寄せられていた。そんな折、彼は業病にかかり、家督相続の権利と愛しい許嫁・浅香姫を捨て、突然失踪してしまう。しばらくして、大坂・四天王寺に、変わり果てた俊徳の姿があった。彼は社会の底辺で生きる人々の助けを得ながら、身分と名を隠して浮浪者同然の暮らしをしていたのだ。そこに現れる、浅香、次郎丸、玉手と深い因縁を持つ合邦道心。さらに、誰にも明かせない秘密を抱えたまま消えた玉手が再び姿を見せた時、物語は予想もしない結末へと突き進む。

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