作品公開日 7月1日から順次公開

京都シネマ  7月7日
第七芸術劇場 7月8日
元町映画館  近日

この映画を手掛けた川上アチカ監督、内容はこの「エンタメREVUE」にアップしている岩永久美さんの記事を読んでいただくとして、私なりの感想も記すことにする。
私にとって若い頃は浪曲は、まったく違う世代が楽しむ芸能で無縁の存在だった。それが10年ほど前、ある組織から浪曲を含む「大衆芸能」について〈ウォッチング〉する要請がきたのを機会に、ことあるごとに観るようになった。この映画は関東の浪曲界を題材にしているが、関西には浪曲親友協会という組織があり、そこの定席として一心寺(大阪市天王寺区)にある会場で「一心寺門前浪曲寄席」(毎月、3日間開催)があり、そこに足を運ぶことになった。50人程度の客席は昔からのファンが多数を占め、間合いのいい掛け声、拍手が起こる独特の空気だが、なかには若者や外国人の姿も毎回、見かけ、自分が持っている「固定概念」とは無関係にこの芸、パフォーマンスを楽しむ人々もいるのを実感。そうすると、自分自身もそんな気分でさらに楽しめることになった。関西ではこの定席に加えて、4月から「築港高野山みなと浪曲寄席」(大阪市港区)という定席もスタート。わずかながら、人気復調の兆しもみえてきている。
そんななかで、この映画の試写を観た。作品の軸になっている港家小そめも、前述したような観客の1人から浪曲師になった人物。彼女を含めて、ふだんはふつうの女性、おばあちゃんが、浪曲独特のテーブル掛けを施した高座に上がると、がぜん輝き放つ。小そめの師匠、港家小柳はまさにそれで、小そめや川上監督が高座での姿やそこから醸し出る人間性に魅せられたのも、じゅうぶんに納得できる。そして、もう1人の師匠が三味線の玉川祐子(今年101歳)。浪曲ではこの役割を曲師(きょくし)と呼ぶ。舞台の上手(向かって右側)に座り、なかには観客に姿を見せる人もいるが、多くは衝立を施してを見せることなく、三味線の音色と絶妙の合いの手で盛り上げる。余談だが、ある賞に師を推薦したところ、大ベテランの演芸評論家から「曲師は影の存在、賞の対象にはならない」と言われた。体験を重ねるごとに、これには疑問が増すばかりなのだが…。
映画はあえて、ドラマチックにする編集ではなく、淡々と日々を描いている。木馬亭での名披露目興行が行われる前のファンの声。「大きな金は払えないけど、今日ぐらいは客席をいっぱいにしてやらないと」という言葉に胸が熱くなった。ドキュメンタリー映画として味わえるのと同時に、これを機会に「1度、浪曲を見てみようか」という人が増えることも願っている。
チラシ写真は港家小そめ(左)と玉川祐子
(2023/日本/111分)
配給:東風
⒞ Passo Passo+Atiqa Kawakami

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