三島有紀子監督インタビュー
2023年6月10日から大阪のシアターセブンで公開。

「繕い裁つ人」「幼な子われらに生まれ」などの三島有紀子監督(54)の初のドキュメンタリー映画「東京組曲2020」(オムロ配給)が10日から大阪のシアターセブンで公開される。「コロナで緊急事態宣言が発令された直後の4月22日、自宅ベランダで女の人の泣き声を聞きそれを記録として残したい」という思いで取り組んだという。
映画界に入る前のNHK時代に「NHKスペシャル」「トップランナー」などの番組を手がけ、それ以来のドキュメンタリー作品になる。「劇映画で撮る予定の作品がコロナで延期、中止になって、今自分がどの場所に立っているのが分からなくなった。自宅ベランダで朝方4時ごろ、女の人の泣く声が聞こえてきた。その声は慟哭に近く、怒りや悲しみがこもっていた。これを記録しなければと思ったのが動機になった」
ワークショップなどで知り合った何人かの役者と連絡をとり「今何を感じ、どんな思いで暮らしている?」と聞き、「それを映像で記録して」と依頼。ベランダで聞いた「泣き声」を、役者の松本まりかに吹き込んでもらう。「その8分のテープを聞いて、どんな反応をしたか?」という問いを役者陣に投げかけた。そのプライベートフィルムを編集でつないだのが1本の作品になった。
冒頭、荒野哲朗が一人自宅で料理をした後、所在なげにベランダでタバコくゆらせるシーンから始まり、20人の役者のそれぞれの緊急事態宣言下の日常が映し出される。「役者さんはほとんど仕事がなくなり、不安な暗い気持ちで、どう脱出するか考える。主婦でもある田川恵美子さんは夫が家を出た後、居間で突然やりきれなく踊り出す。大高洋子さんは出演した映画の舞台挨拶が中止になり、着て行くはずの服を着て悔しそう。あるいは佐々木史帆さんは東京から田舎に戻り自分の部屋に愛猫と閉じこもり2週間を過ごし、「お母さんに会いたい」とドア越しに泣く。
「今年5月にコロナの感染症上の位置づけが2類から5類に移行し感染対策は自主的な判断が基本となった。それぞれのコロナ体験はそれぞれに残っていても次第に忘れられるかも知れない。しかし、また泣きたいことがあっても必ず夜明けがあるということ。20年後くらいにこの映画をまた見たい気がする」
同時期に三島監督が役者の佐藤浩市と組んで撮った短編「IMPERIAL大阪堂島出入橋」(15分)が併映される。三島監督の生まれ育った大阪堂島にあったレストランが閉店になりそのシェフ(佐藤)に寄り添った作品で11分40秒の長回しワンカット800の路上シーンが見どころ。下元史朗、和田美沙共演。初日の10日、11日にシアターセブンで三島監督が舞台挨拶する。また三島監督は劇映画をすでに1本撮り終えて仕上げに入っている。
写真は「あの時の泣きたい気持ちを…」と話す三島有紀子監督=大阪・十三のシアターセブン

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