戦前・戦後の演劇の悲喜こもごも

2023年5月28日~6月20日
大阪・新歌舞伎座
7月1日~23日
博多座

藤山直美が主演する舞台。かつて、この劇場を経営していた松尾波儔江(はずえ)(1901年~91年)の自伝的著作「女役者」を原作とした作品で、1999年、2005年に続き、今回は松尾の「三十三回忌追善」と銘打って上演された。前2回は建築家・村野藤吾が設計した「連続唐破風」が目を引く芝居小屋のたたずまいがあった旧・新歌舞伎座(大阪市中央区)だったので、大阪市天王寺区に移転してからは〝初登場〟。前々回、前回も観劇していて、当時のプログラムを先日たまたま見つけたばかりだが、正直を言って詳細な記憶は薄れていた。それだけに。ある意味で「新鮮」な気持ちで観た。
松尾自身は旅回りの子役から始まり一座を持つ人気役者になった。そして、同じく役者だった松尾國三と出会い結婚、夫婦で新歌舞伎座などの劇場運営で興行界に大きな足跡を残した生涯だった。この舞台はそこからインスパイアされてはいるが、藤山が扮する女役者・川路鹿子が戦前・戦後を生き抜く姿を、フィクションでまさに笑いと涙で描いている。特に三演に向けては、母親が違う妹・川路禎子(南野陽子)との姉妹との関係を掘り下げたという。ある時は反目しあいながらも、心が通じあう姉妹。最後に禎子の幼い娘が「母親の気持ち」を代弁する場面は胸に迫る。
一方、とても興味深く思ったのは、戦前戦後の演劇や映画の状況、それも大衆的な文化における盛衰が描かれていること。近年はカッコよく〝ハイカラ〟な芝居が多いなか、この土臭さ、庶民的な視点がかえって新鮮でもあった。例えば、戦前の舞台で隆盛を誇った安来節(やすぎぶし)。吉本興業の吉本せいが島根に伝わっていた踊り、どじょうすくいに着目して、大阪の舞台で上演したところ、大ヒットしたというエピソードが有名。ここでは、主人公もそれを演じるのだが、藤山がおかしくも味わいのある「どじょうすくい」を披露している。また、「芸の姉に対して美貌の妹」という図式で、妹は姉の夫・耕三と駆け落ちして満州に渡り映画スターになるという設定。劇中で「第2の李香蘭」というセリフがあるように、これもまた当時の時代背景、芸能の世界を映し出している。
そして、もう1つ。鹿子の夫・耕三(榎木孝明)が禎子と駆け落ちと、劇中劇の歌舞伎の「恋飛脚大和往来 新口村」とがシンクロする場面。雪が降りしきるなかでの、梅川忠兵衛の心中と耕三・禎子の逃避行が、時代を超えて並行して描かれているのが印象的だった。緩急とりまぜたしぐさで笑いをとる藤山を軸に、共演陣も芸達者がそろい、満足度の高い舞台となった。
吉本哲雄、横山一真・脚本、竹園元・演出

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