「幻滅」

2023年4月14日公開

19世紀フランスの文豪オノレ・ド・バルザックの小説「幻滅 メディア戦記」の映画化。
主人公のリュシアンは印刷工をしながら、詩作に励む青年。詩人として成功するには貴族の援助が是非とも必要で、貴族の人妻ルイーズの援助を受けていたが、田舎町では芽が出ない。そこでルイーズと駆け落ち同然にパリの社交界に飛び込むが、貴族ではないという出自のせいではじき出されてしまった。運良く新聞記者のエチエンヌと出会って、新聞社の仕事を掴むが、当時、王党派に対抗していた自由派の新聞「コルセール・サタン」の編集方針は良心と無縁。上司の座右の銘は〝株主を豊かにすること〟だ。
リュシアンは賄賂や買収が横行する空気に染まり、自分を認めてくれなかった貴族達への恨みをペンで晴らすようになる。部数を増やすためなら手段を選ばず読者を煽る「コルセール・サタン」。グザヴィエ・ジャノリ監督は、新聞が芸術に対して持っていた影響力をブラックユーモアで描く一方で、無批判について行く大衆を暗に批判している。
文学を愛し〝ひなぎく〟とあだ名される主人公を演じたバンジャマン・ヴォワザンは、本作でセザール賞の有望新人男優賞。退廃的な上司役のヴァンサン・ラコストは、最優秀助演男優賞を受賞している。その他に、拝金主義の悪魔のような出版界の大物役に、税金問題でフランス政府を批判して話題になった映画界の異才、ジェラール・ドパルデューが扮して奥行きを感じさせた。問題を抱えたリュシアンという個人の物語だが、歴史的時間と人間の生き方、権力との関わり方についての物語でもあり、それは他ならぬ私たち自身の問題とも読めて見応えがある。

©2021 CURIOSA FILMS-GAUMONT-FRANCE3 CINEMA-GABRIELINC-UMEDIA
配給: ハーク
オフィシャルサイト: https://www.hark3.com/genmetsu/

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