「聖地には蜘蛛が巣を張る」
2023年4月14日公開

女性に頭髪を覆うスカーフ身に着けることを強いるなど、圧制が世界的な問題になっているイラン。この映画はそこを舞台にしているが、同国でロケができるはずもなく、ヨルダンのアンマンで撮影を敢行。そして、イラン出身で現在は北欧を拠点に活躍するアリ・アッバシ監督が演出。主演しているザーラ・アミール・エブラヒミは、同国の国民的女優として人気があったが、2008年にフランスへ亡命して経歴の持ち主。この作品で第75回カンヌ国際映画祭女優賞を受賞している。
簡潔に言うと、実話を基に娼婦を殺害し続ける男(メフディ・バジェスタニ)とそれを追うジャーナリスト(ザーラ・アミール・エブラヒミ)との物語。謎解きの要素は薄く、最初から犯人がわかっていて、彼が淡々と殺人を繰り返していく様子、そして家庭では良き父親である姿が対比的に描かれていく。冒頭は、ある娼婦が登場して、けっこう細やかな描写があるので彼女がドラマの重要なカギを握るの?と思わせるが、彼女もまた犯人によって絞殺されるという、映画のセオリーを覆すような意表をつく展開。
こういった事件は世界中で起こっていて、被害者が娼婦の場合は、社会正義を狂信的に捉える視点(犯罪者はその象徴)と、娼婦を〝社会的弱者〟と捉える視点との格差が大きい。例えば、日本では「東電OL殺人事件」。ごく普通のOLが〝夜の仕事〟をしていたという現実が大きな社会的出来事になった。こういった場合、どちらかというと、〝身を売る〟側のドラマに重点が置かれることが多いが、この映画が特徴的なのは、殺人者の生きざま、さらにそれを追うジャーナリストが描かれている。
というのも、現状のイランの政情とは直接的には関連はないが、国民にとっては「聖地」とあがめられている場所での「闇」が大きなテーマ。殺人に快楽を覚えるような狂気的な心情ではなく、間違った信念から犯罪を繰り返すことに、重大な〈病根〉がある。そうしたメッセージを、事件を解明しようとするジャーナリストを登場させることで、メッセージ性だけでなくサスペンスタッチの佳作ドラマに作り上げている。
©Profile Pictures / One Two Films  公式HP:gaga.ne.jp/seichikumo
配給:ギャガ

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