「幻滅」

2023年公開 2023年4月14日
シネ・リーブル梅田 シネ・リーブル神戸 アップリンク京都ほかで公開

19世紀のフランスを代表するオノレ・ド・バルザック( 1799年~1850年)の小説を映画化。というと、なんか〝難しそうなドラマ〟を予想されがちだが、1人の青年の欲望と挫折、そしてジャーナリズムが持つ強い影響力とそれを悪用した腐敗が描かれている。バルザックが44歳の時に書いた「人間喜劇」の1編で、バルザックの半生を投影したこの「幻滅―メディア戦記」は200年も前に発表された物語はあるが、現代にも通じるテーマが描かれていて、ドラマチックな展開を楽しむことができる。
19世紀前半のフランスを舞台に、詩人・作家を志すリュシアンは、パリで新聞記者として働くことになる。しかし、記者には「ジャーナリズム精神」というものはなく、金のためにフェイクニュースを流し、「書評を書く時は読まないほうがいい」と文芸評も演劇評も金次第。経営者は新聞を商売と割り切っていて、「記者も見世物の一部だ」と言い放つ。そんな描写は、国や時代も違うけれど、私はそのスタンスに「市民ケーン」のモデルになったランドルフ・ハーストがダブってきた。新聞王とも呼ばれたハーストも、センセーショナルな記事で購読を伸ばして大金持ちになった人物。地位も名誉も手に入れた彼だが、最期に想うのは幼少期の頃のこと…というのが「市民ケーン」の内容で、そんなことが頭をよぎりながら観た。さらに、これほど極端ではなく、社会的な影響を与えはしないけれど、いまもそれほど変わらないのでは?とさえ思えてくる。例えば、アメリカではドナルド・トランプを軸にした出来事で、あまりにも擁護しすぎと感じる論調の新聞がある。日本でも、1つの出来事をさまざまなスタンスの新聞が一定のフィルターをかけながら日々報じていく。
一方、主人公の生きざまには、スタンダールが書いた「赤と黒」のジュリアン・ソレルに通じるキャラクター。貧しい生活から這い上がろうとするなかで、時には自分の意に沿わないことに手を染めてしまう姿は、これも彼らほど「ドラマチック」ではないものの、我々の生きざまにもあること。
あんなこんなことを想い浮かべながら観た、現代にも通じる〝難しくない〟文芸作品だ。
監督/脚本:グザヴィエ・ジャノリ
キャスト:バンジャマン・ヴォワザン セシル・ド・フランス
ヴァンサン・ラコスト グザヴィエ・ドラン
2022年/フランス映画/フランス語/149分/カラー/5.1chデジタル/スコープサイズ

予告編
2022年セザール賞7冠!映画『幻滅』予告編 – YouTube
映画『幻滅』公式サイト (hark3.com)

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