映画「ロストケア」
TOHOシネマズ梅田ほかで上映中。

一昨年、「そして、バトンは渡された」「老後の資金がありません」の2大ヒット作を生んだ前田哲監督の新作「ロストケア」(日活・東京テアトル配給)がTOHOシネマズ梅田などで上映されている。第16回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞した葉真中顕の同名小説の映画化。松山ケンイチ(38)と長澤まさみ(35)が初共演した衝撃作で前田監督は「2人の魂がぶつかり合って、土砂降りの雨の先に光が見える作品になった」と話す。
原作は2013年に発表されたが「読んですぐ映画にしたいと思い、松山くんに電話した。彼もすぐ読んでくれてぜひやろうと返事をくれた」と10年前を述懐。松山とは「ドルフィンブルー、もういちど宙(そら)へ」(07年)で組んでおりこれが2本目になる。介護士の男が42人の被害者を出した殺人事件の加害者で検事の男と対峙する話。加害者の斯波に松山、原作では男性の検事を映画は女性に替えて長澤がその役に起用された。
「斯波(松山)は訪問介護センターで働く真面目な介護士で、多くの介護家族に慕われている。何故彼は犯行に及んだのか。事件の担当になった検事の大友(長澤)は不審に思いながら真相をたぐって斯波に迫っていく。斯波はその行為は殺人ではなく『救い』だと主張。大友は『それは法の下では殺人』と頑なに断罪する。しかし、斯波の言葉は強く、あたかもそれは『正義』のように聞こえるが、大友の攻撃は決してひるまない」
「斯波の強さの裏に、介護に対する国の対応の不備や、自分の父親(柄本明)がそれで苦しんだ経緯が潜んでいる。大友も家族の母親(藤田弓子)が介護施設に入っている。2人は『合わせ鏡』のようなところがある。どちらが勝つか負けるかもあるが、一緒に考えながら見てほしい。松山・長澤の対決シーンは将棋の『名人戦』を見るような迫力があった」
斯波がいう「救い」の真意とは何か。大友の「法の下」という大義は何か。高齢化社会、あるいは格差社会の世の中のひずみが大きく関わる。「それは土砂降りの雨だけれど、その先に光が見える映画にしたかった」と前田監督は付け加える。共演は鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、峯村リエ、加藤菜津、やす(ずん)、井上肇、綾戸智恵、梶原善ら。脚本は女性の龍居由佳里と前田監督の共作。撮影は朝倉陽子。「ジェンダーや年齢にこだわりがない。僕自身、性別、年齢不詳」と前田監督は笑みをこぼす。大阪府出身である。
1998年に故相米慎二監督プロデュースの「ポッキー坂恋物語 かわいいひと」がデビュー作。「ロストケア」は妻夫木聡主演の「ブタがいた教室」(08年)と大泉洋主演の「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」(18年)に続く前田監督の「命3部作」という。次回作は広瀬すず主演の「水は海に向かって流れる」(6月9日公開予定)と時代劇「大名倒産」(6月23日公開予定)の2本が待機している。

写真は「2人の生の芝居を観客に伝えたいと思って撮った」と話す前田哲監督=大阪市北区のアプローズタワー

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