「ライク&シェア」

タイトルはネット上のいいね!とシェァのこと。指先1つで出来る、簡単であまりにも身近なこの作業が、深く人を傷つけ新しい差別を生んでいる。本作は俗に言う〝リベンジポルノ〟の問題に焦点を当てた作品だ。映画冒頭で、あらかじめ性暴力のシーンがあることをことわってあり、映画の終わりでも、コロナ禍の中での被害について数字を掲載している。若者に向けた啓発映画的な性格を持っている映画なのだ。
主人公は高校の同級生リサとサラ。2人は動画を制作して、ネットに顔出ししている。動画は将来の仕事に結びつけたいと考えて、真剣に作っているが、内容がセクシーで誤解されることが多い。2人はある日、ネット上で拡散された見ず知らずの女性のポルノ画像に目をとめるが・・・。
リサの家庭は、母親が再婚して改宗し、環境が激変したばかり。サラは両親が事故で亡くなった後、兄と暮らしている。多感な時期に不安を抱えながら生きている高校生の青春が、気取りの無いタッチで描かれる。性の問題がしっかり描かれている以外は、ごく普通の青春映画だ。一体どういう点に気を付けて撮影したのか— 映画祭会場からの質問に監督は、このテーマを扱うに当たっては、インティマシー・コーディネーターを使って、演じる人たちのメンタルに配慮したこと。内容に関しては、法制度、新聞記事、実際の高校生へのインタビューを重ね、何度もディスカッションを行い、慎重を期しことなどを明かした。
ストーリーの中には嫌な男性がたくさん出てくるが、サラの兄・アルヨだけはまともな男性だ。彼の行動は、ストーリーの中でも分岐点になる。女性への暴力や抑圧という不快な題材だが、エピソードは緻密に構成され、今のインドネシアのみならず、世界中の若年層を囲む状況に観客が気づき、向き合えるように展開させている。インドネシアが男性優位社会ならば、なおさら男性の観客を取り込まないと、女性の現実は変わらないということなのだろう。ギナ・S・ヌール監督は凄い才能の持ち主である。

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