「エンパイア・オブ・ライト」
2023年2月23日公開

「バビロン」「フェイブルマン」と、このところ映画にまつわる作品が相次いで公開されているが、この映画もその1つ。これも、それらに匹敵するほどの佳作。1980年代のイギリスの海場の町にある映画館で働く人々を描いている。以前は「スクリーン4」まであった劇場がその当時で2つが閉まっている状況、さらに「レイジングブル」(1980年)などを上映する様子や、「炎のランナー」(1981年)のプレミア上映会の会場に選ばれた光景。そして、そこでしているヒロインのヒラリー(オリビア・コールマン)がたった1人で、映写技師が勧める1作(作品は観てのお楽しみ)を鑑賞するラストシーンは、映画好きにはたまらない描写だ。
監督は「アメリカン・ビューティー」「女王陛下のお気に入り」、さらに「007 スカイフォール」「007 スペクター」などを手掛けたサム・メンデス。
映画監督の印象も強いが、シェイクスピア演劇やミュージカル「キャバレー」などを演出した舞台畑の人。それだけに、「劇場」に対するリスペクトが全編にわたって感じられる。まるで「オペラ劇場」か?と思わせるような、映画館「エンパイア」は、広いロビーから左右に赤い絨毯が敷かれた階段があって、そこから「シネマ1」「シネマ2」へ。場内には、歴史を感じさせる銀色のエンブレムが舞台を囲み、左右に幕が開くと、大きな銀幕が現れる。1980年代のイギリスとはいえ、こんな空間で映画を楽しめたとはなんと贅沢なことだろうか。
そこで働くヒラリーは、精神的に不安定で、映画館主のエリス(コリン・ファース)と不倫関係にある。そこへ、スティーヴン(マイケル・ウォード)という黒人青年が働き始め、やがてひかれあっていく。というと、ラブストーリーを思わせるが、それぞれの情愛は生々しさえある。さらに、そこへ人種差別という時代背景が重くのしかかってくる。
そうしたリアルな人間ドラマと、夢を運ぶ映画館とが巧みに混在して、1冊の小説を読み終えたような満足感が。ただし、これ観た映画館は、機能的を重視した〟(味気ない)シネマコンプレックスの一番小さなスペース、こんな作品が、日本ではあまり知られることなく封切られ、終わっていく寂しさも感じたのだった。

エンパイア・オブ・ライト | Searchlight Pictures Japan

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