「レジェンド&バタフライ」
27日から大阪ステーションシティシネマほかで公開

織田信長を描いた時代劇は数多く、伊藤大輔監督の東映映画「徳川家康」で中村錦之助(後の萬屋錦之介)が演じた信長が印象に強く残っている。今回は木村拓哉(50)がそれを演じ、東映創立70周年記念作として登場。信長が本能寺で命を散らした年齢と同じという木村と組んだのは「るろうに剣心」シリーズなどの大友啓史監督(56)。時代劇の歴史と伝統を持つ東映京都撮影所のバックアップと古沢良太のオリジナル脚本を得ての新作に期待は大きい。
16歳の信長のところに15歳の濃姫(綾瀬はるか)が嫁いで来るとこから物語は始まる。そこは平城の尾張・那古野城である。政略結婚の2人は、初めから気が合うはずもなく、仏頂面と怪訝な表情の男と女である。元敵対していた尾張と美濃という立場なら仕方もないが、その後、本能寺の事件までの33年間を2人はどう生きたのかを、映画は夫婦の愛の物語として描いている。
2人が鷹狩りに出かけ信長が崖から落ちそうになったところを濃姫が助けるところから夫婦の間に流れるものが違ってくる。戦国の世ならば「生き延びる」ことが正義である。父の斎藤道三(北大路欣也)の死で自害を考える濃姫に信長は「これからはわしの妻として…」と励ます。やがて強敵・今川義元の大軍が尾張に攻め入るという知らせが入り、相手より遙かに少ない自軍がいかに戦うかについて奇策を提案する妻に心強さを感じる信長。
桶狭間の戦いで義元を破った信長は、天下統一に向かって勢いを強めるが、比叡山延暦寺を焼き討ちするなど鬼の表情を見せてきて濃姫は心を痛める。部下の木下藤吉郎(音尾琢磨)や明智光秀(宮沢氷魚)、側近の森蘭丸(市川染五郎)らの心配もある中、駿河の徳川家康(斎藤工)が不気味な表情を見せている。
信長は何を急いでいたのか、追い詰められていたのか、焦っていたのか。彼は戦いの日々、孤独と苦渋の中で、ひそかに胸に秘めていたことがあった。それは濃姫の夢のこと。しかし、悲しいかな本能寺の事件はやって来る。信長の木村が戦国の世の男の美学を柔軟かつ豪放に演じて哀愁を誘う。濃姫の綾瀬は強く儚く、戦国の女を演じている。濃姫に付き添う中谷美紀の筆頭侍女、伊藤英明の侍従の存在がとてもいい。大友監督の濃姫賛歌がそれにこもっている。信長と濃姫の絢爛ラブ時代劇である。

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