「喜劇 老後の資金がありません」
2023年1月14日から28日  南座
2月1日から19日  新橋演舞場

タイトルからして、「悲痛な叫び」のシリアスなドラマ?と思う人もいるかもしれないが、そうした現実を受け止めながらも、明るく元気に暮らすヒロインたちを軸に描く喜劇。さらに、美空ひばり風のきらびやかな衣裳を着けての演歌、「ヤングマン YMCA」ならぬ「MIE」(見栄)、「KOI」(恋)を身体で表現しながら歌う曲、さらにラップまで登場するミュージカル仕立てでもある。
原作は垣谷美南の同名小説で、天海祐希、柴田理恵コンビで映画化(2021年)、舞台では渡辺えり、高畑淳子で初演(同年)された物語。今回の再演は、4人家族の主婦・篤子役に初演と同じく渡辺えり、そして、夫とパン屋を営むサツキ役に室井滋が演じている。意外なことにこの2人、舞台でも映画でも本格的には初めての共演。持ち前の明るさのなかに哀しみを秘めるキャラクターという部分には共通点がある。そんな2人の「揃いふみ」で、そうした魅力が倍増されている。そうしたなかで、自分も夫もリストラされ、貯金も目減りしていくなか、「ストレス解消」とちょっと高いスィーツを食べ、義理の妹にも遠慮がちながらもはっきりものを言う篤子。一方のサツキは節約家という違いもくっきり浮かびあがらせている。
年配が多い客席では、そんな様子に自分を重ね合わせ、それでも明るさを失わない彼女たちに共感する。なかでも、篤子が葬儀屋と義父の葬式について相談するシーン。なんとか安く収めようとするが、葬儀屋に世間の標準を勧められて、どんどん高くなっていく様子はリアルで、ある意味で痛切でもある。そういったリアリティーから見ると、娘の結婚式に夫側と600万円を折半するという設定は、質素な結婚式が風潮のなかでちょっと過剰に思えた。また、記憶が正しくければ、映画には草笛光子がおじいちゃんに扮して珍演、舞台版初演にはなかっただろう、「年金」をめぐり場面が客席を沸かせた。現実はこれほどうまくはいかないのはわかっていながらも、元気がもらえる作品だった。
写真(C)松竹
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