「そばかす」
2022年12月23日からシネ・リーブル梅田ほかで。
ひと頃、自分探しという言葉が流行ったが、本作の主人公・佳純は、もう既に自分を見つけている人物である。セクシャリティにおいてかなりの少数派。なにせ、生まれて30年間、誰に対しても恋愛感情を持ったことか無いのだから・・・。佳純は孤独を感じても、自分はこうなのだから結婚せずに通す、と決めている。
音大でチェロを弾いていたがプロにはなれず、実家に戻ってコールセンター勤務。佳純が結婚も恋愛もしないので、先に結婚して妊娠している妹の方が、勝ち誇ったような顔をしている。「お姉ちゃんは本当はどうしたいの?」「私はこのままでいい」。姉妹のやり取りは平行線だ。そんな中、佳純は転職の決心をする。
自分はゲイだとカミングアウトする同僚。AV女優として活躍して帰郷した友人。佳純に替わって婚活する母――。主人公の周囲には、様々な人物が配置されている。佳純の生き方は、時に他人との間に軋轢を生む。玉田真也監督は佳純に傷つけられた人物も描き込んで見せ、決して何が正解かを押しつけて来ない。
人物像の中の憂いを表現する三浦透子は魅力的で「ドライブ・マイ・カー」での高評価も頷ける。後半、佳純が奏でる「オンブラマイフ」はもともとヘンデルのオペラ「クセルクセス」の中の一曲だ。この不思議な魅力を持つ一曲が無ければ、オペラ全体が不完全なものになるように、佳純のような人間が居なくなると世界はひどく退屈な場所になるだろう。佳純が逃避的にならず、とどまってさざ波を起こす姿は感動的だ。少数派か多数派かに関わらず人間は1人ひとりが必要な存在なのである。共演に前田敦子、北村匠海。

1時間44分/日本
(C)2022「そばかす」製作委員会

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