「吉例 顔見世興行」
南座で2022年12月4日から25日
「師走恒例」という表現がぴったり。少なくとも10数年は「顔見世」を観劇している。この公演は京都五花街の芸妓、舞妓が観劇するのも習わしでそれを「総見(そうけん)」というのだが、同様に「記者総見」というのもあり、私もその一員に加えてもらっていて、1日で全演目を観るというのも恒例。かつては、午後10時過ぎまで、「たっぷり」という時もあったが、時代なのか今では時間が短縮。しかも、コロナ禍とあって三部構成になっている。それでも午前10時30分に開演して、第三部終了が午後8時過ぎと約10時間。さすがに疲れるが、なんとも贅沢な1日を過ごしている。さて、いくつかの演目の感想を。
《第一部》「義経千本桜 すし屋」
関西弁で「やんちゃな子」のことを「ごんた」と言うこともあるが、その語源と言われるのが、この演目の主人公である、いがみの権太。両親に金をせびり放蕩の限りを尽くす男だが…。演じているのは中村獅堂。現在の歌舞伎界のなかでも、あまり枠にこだわらずに幅広いジャンルで活動している彼だけに、まさにはまり役。物語の展開そのものは、現在ではあありえない展開なのだが…。なにしろ、獅堂の「ごんたぶり」いなせでかっこよく、一定程度、納得できるから不思議。他に「龍虎」。
《第二部》
「封印切」
中村鴈治郎が忠兵衛、中村扇雀が梅川を演じる上方和事の代表作。忠兵衛が、男の見栄で思わず封をしている大金を切ってしまうくだりが最大のみどころ。そこに至るまでの、「何が彼をそうさせたか」の過程をじっくりと描いている。片岡愛之助が扮する八右衛門が嫌味を言ってじわりじわり、忠兵衛を追い込んでいくあたり,いまもありそうでリアル。
「松浦の太鼓」
顔見世興行にはなくてはならない存在の片岡仁左衛門が主役の芝居。忠臣蔵のスピンオフ(外伝)ともいえる内容で、吉良邸の隣に住む武士。義士たちが「討ち入り」をしないのでイライラしていたのだが、ついにその時がきた! 頼みもしないのに馬にまたがって助太刀しようとするなど、どっしりとした風格よりも人間味あふれる人物像を活写していた。
《第三部》
「女殺油地獄」
派手でにぎやかな芝居で終演というパターンが多いなか、片岡愛之助、片岡孝太郎が
珍しくまさにドロドロの恋模様を繰り広げる近松門左衛門作品。スペクタクル映画を観ているような、油まみれの男女の争い。好きな演目ではあるが、この公演にふさわしいかどうかは別。ほかに「年増」
まねきに大看板がそろい、オールスターの楽しみがある顔見世。来年も(は)、にぎやかな興行で正月を迎えたいものだ。
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