「AKAI」
2022年9月9日公開
最近では、佳子夫人と一緒にバラエティー番組や旅番組などで、ほのぼのとした雰囲気を醸し出している赤井英和。ボクシングを知らない人には、「元ボクサー」という肩書は知ってはいても、こんな「凄い選手」だったと知らない人は多いだろう。この映画は、赤井のボクサー時代を、試合映像をふんだんに駆使して描いているドキュメンタリー。世界タイトルの前哨戦でKOされたことで、「生存率20パーセント」という大手術を受けたものの奇跡の生還。しかし、ボクサーを断念した後、映画「どついたるねん」主演で俳優として注目されるようになった彼の軌跡をたどっている。格闘技はけっこう好きで、ボクシングの世界戦中継などは必ず観ているので、これは見逃せない作品だ。
ちなみに、「どつたるねん」製作から公開当時、私は新聞社の映画担当記者だった。既存の映画館ではなく、大阪市内のテント式映画館で上映されたために在阪の映画記者は「ほとんど無視」なのに疑問を持ち、独自に取材を重ねるなかで、荒戸源次郎プロデューサーや赤井とも知己を得た。その後も、続編的作品の「王手」や一時期、積極的に出演していた香港映画(「何日君再来」など)も現地取材などをした記憶がある。
そして、公開前の関係者試写に、新聞社当時の同期を誘って行った。彼は長年にわたってボクシング担当記者をしていて、映画に登場する試合はリアルタイムで取材していた。当然、赤井とは緊密な関係にもある。ある時、名古屋の劇場に出演している赤井の楽屋を2人で訪れたことがあった。すると、赤井は最後まで足を崩さず敬語で受け答え、やはり「体育会系はすごい」と思ったこともあった。
さて、30人ほど入る試写室で彼と上映を待っていると、偶然にも赤井夫妻もやって来て久しぶりに再会することができた。私たちは彼の後ろの席にいたのだが、スクリーンに映し出される自分の試合シーンでは、自然に上半身を左右に動かせて、まるで実際に試合に臨んでいるような姿に感動した。見終わって、「自分の映画を観た気分は?」と聞くと、「赤井英和が好きになりました」との答え。確かに、筋肉をそぎ落とした体もだが、しゃぬむに「どつきにかかる」、いまではないようなボクシングスタイルも含めて、「浪速のロッキー」ハカッコいい!
編集・監督したのは、長男でボクサーとしても将来を期待されている赤井英五郎。現在のインタビュー場面をのぞいて、過去の映像を「並べて」いるようにも思われるが、細部に凝った編集がなされている。まず、朝日放送のアーカイブ映像がいい。試合の映像はもちろんのこと、控室での緊張した様子や試合中にトレーナーのエディ・タウンゼントが叱咤激励する様子、声も収録している。現在ではこうしたインサイドものが当然のように撮影されているが、40年ほど前にそれを収めていたのに感心した。
試合シーンには、中央にラウンド数、右下に経過時間が表示されているのが、これはおそらくこの映画のために加工されたもの? そうであるなら、古さを感じさせるフォント(文字)をあえて使っているあたり、なかなかのセンス。
ボクシングファンだけでなく、目標に向かって一途に突き進んだ姿はさわやかで楽しめることだろう。

映画『AKAI』公式サイト (gaga.ne.jp)

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