「破戒」
2022年7月8日から、梅田ブルク7で公開

島崎藤村の同名原作を60年ぶりに映画化した「破戒」(東映ビデオ配給)が8日から梅田ブルク7で公開される。1948年に木下恵介監督で、62年に市川崑監督で映画化されて名作の評価が高い。主人公の瀬川丑松を前者は池部良、後者は市川雷蔵が演じた。今回は「20代最後の作品」という間宮祥太朗が演じ、「発熱天使」(99年)の前田和男監督(64)がメガホンを取った。
映画の舞台は明治後期の田舎のある小学校。地元を離れ教員として奉職している丑松(間宮)は父親(田中要次)から「被差別部落の出自は隠し通すように」と強い戒めを受けていた。そうしないと世の中から差別を受けるので丑松はひそかに戒めを守っている。生徒たちに慕われている丑松の教室は明るかったが、校内で出自についての噂が流れ始め彼の苦悩が次第に深まっていく。
丑松は被差別部落出身の思想家・猪子蓮太郎(眞島秀和)の著書に傾倒していることが知れ、校長(本田博太郎)らの非難の視線が集まり窮地に追い込まれていく。同僚教師・銀之助(矢本悠馬)の支えと、下宿先の寺に住む士族出身の志保(石井杏奈)への思いがわずかな救いだった。やがて猪子が政敵の暴漢に襲われて、丑松はある決意を胸に教壇に立とうとする。間宮が丑松の悲しみを全身に包み込んで好演している。
志保の石井が丑松の思いを受け止めながら心の中から愛のシグナルを送っているのが切なく伝わる。木下作品で桂木洋子が、市川作品で藤村志保がそれぞれ演じて可憐だった。藤村の場合、これがデビュー作で役名から芸名が付けられた。筆者は十代の半ばで小説を読んで感動し、その後映画を見て雷蔵の丑松と、藤村の志保を応援するテレパシーを送っていたような気がする。
同僚教師の銀之助役の矢本がいい味を出しており、高橋和也、大東駿介、竹中直人、小林綾子、石橋蓮司らが共演。前田監督はまっすぐに美しい「破戒」の世界を捉えている。時代はあれから100年以上経ているが、丑松の思いは決して過去のものだけではない。

※写真説明=「破戒」の間宮祥太朗(右)と石井杏奈 (C)全国水平社創立100周年記念映画製作委員会

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