映画「ベイビー・ブローカー」
2022年6月24日から全国公開
是枝裕和監督が、また〝疑似家族〟の佳作を生み出した。「家族」をテーマにこれまで、さまざまな映画を手掛けてきた是枝監督だが、そのなかでも「万引き家族」は、一見すると「家族」という思われる人々の真実がだんだんとわかって来て、観ている側に「家族」とは?「他人」とは?という問題を投げかけてきた。その流れをくむ、この作品は、赤ちゃんを手放そうと赤ちゃんポストに預けた母親と、金儲けのために赤ちゃんを連れ去る男たちという、ある意味で敵対する「他人」が「家族」になっていく物語。そこに児童養護施設の少年が加わり、さらに彼らを追う2人の女性刑事が、大きな輪で〝共感〟さえ抱いていく。
そんな予想をさらに上回る展開に、なにかドラマチックでわかりやすい出来事、心変わりのきっかけを描きたいところだが、それがないのがこの作品の大きな魅力。オンボロ車に同乗して、養父母を探す旅が淡々と描かれていき、そのなかでちょっとずつちょっとずつ心が開かれていくのに、ものすごい説得力がある。
それを象徴するのが、タイトルロールのさえないベイビー・ブローカーを演じたソン・ガンホ。根っからの善人にも見えるが、かといって借金まみれで悪い事に手を染める。そんな極まて〝人間的なキャラクター〟を演技というよりは、風体やちょっとしぐさで表していく。そこには緻密な演技力、人物像への読み込みがあるのだろうが、まったくそれを感じさせないのだ。
私には、彼らを追いかける2人の刑事のうち若い刑事のキャラが、いまひとつわかりにくい気もしたが、人が触れ合う温かみを感じることができる作品だった。TEXT 辻則彦
映画『ベイビー・ブローカー』公式サイト (gaga.ne.jp)

「万引き家族」(2018年)でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した是枝裕和監督(60)が韓国の名優、ソン・ガンホ(55)と組んだ韓国映画「ベイビー・ブローカー」(ギャガ配給)が24日から全国でロードショー公開される。今年のカンヌ国際映画祭でガンホが最優秀男優賞、作品がエキュメニカル審査員賞を受賞しての凱旋上映で、是枝監督が外国で撮ったのはカトリーヌ・ドヌーブ、ジュリエット・ピノシュと組んだフランスと合作の「真実」(2019年)に次いで2度目。
古びたクリーニング店を営むサンヒョン(ガンホ)と、「赤ちゃんポスト」がある施設で働くドンス(カン・ドンウォン)は、ベイビー・ブローカーを裏稼業にしている。土砂降りの雨の晩、2人は若い女ソヨン(イ・ジウン)が赤ちゃんポストの前に捨てた赤ん坊を拾って、それを金にしようと画策するところからドラマは始まる。
サンヒョンは貧乏でずる賢いが人は悪くなく、またドンスも児童養護施設出身で人情味のある男。そんな2人の前に、赤ん坊の母親ソヨンが戻ってきて、彼らの計画は一変し、3人揃って「大切に育ててくれる家族を見つけよう」と、ポンコツワゴン車で養父母探しの旅に出かけるというヒューマンでちょっぴりユーモラスなロードムービー。是枝脚本が面白いのは、3人組を警察の女性刑事2人が追いかけ「現行犯逮捕」を狙っており、ソヨンの亭主が警察上層部と関係があることなどが絡んで進むスリリングな展開。
米アカデミー賞作品「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)で父親役を好演したガンホが今度は疑似家族の父親的役どころで絶妙なのは言うまでもない。「JSA」「殺人の追憶」「シークレット・サンシャイン」などで見せた彼本来の人間味あふれる存在感が映画を引っ張っている。相棒のドンウォンが男らしくカッコよく、「空気人形」(09年)に続いての是枝作品で刑事スジンを演じたペ・ドゥナに味があり、同僚刑事のイ・ジュヨンがかわいく、若い母親のソヨンが謎めいていて魅力的。
「パラサイトー」ほか多くの韓国映画や日本映画「流浪の月」(李相日監督)でも知られるカメラマン、ホン・ギョンピョがプサン、ヨンドク、ウルチンなど韓国の街をリアルに疾走し情感を添えており、音楽、美術、衣装など同国スタッフ陣が是枝作品を全面的に支えている。TEXT BY 高橋聡

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