「流浪の月」

             2022年5月13日公開

「誘拐犯」と「被害女児」その後の再会*

 「フラガール」(2006年)「悪人」(10年)「怒り」(16年)など社会派エンタメ作品を手がける名手、李相日監督(47)の9本目に当たる新作。2年前の凪良ゆうの「本屋大賞」小説を自ら脚色し映画化。PFFの自主映画出身で骨太な人間ドラマを作る力量は折り紙付き。「怒り」に出演した広瀬すず(23)を6年ぶりにヒロインに迎え、松坂桃李(33)とコンビを組ませた青春映画だ。

 ある日の夕、急に雨が降ってきて、人影のない公園のベンチで本を読んでいた少女に傘をさしかけた若い男性が「大丈夫?うちに来る?」と声をかける。親がおらず叔母の家にいる10歳の家内更紗(白鳥玉季)は黙って付いて行く。孤独で行き場のない更紗は男のアパートに行き新しい生活を始めるが、彼らはしばらくして「誘拐犯」と「被害女児」として世間にさらされる。一緒に警察網に追われる男の手を必死に握る更紗の顔は決して被害者のそれではなかった。

 ロリコン大学生による小学女児誘拐監禁事件から15年が経ち、被害者とされた更紗(広瀬)は地方都市にいて、恋人の亮(横浜流星)と小さなマンションで静かに暮らしている。だがある日、パート仲間の佳菜子(趣里)に連れられて行ったアンティークショップの2階にあった「隠れ家バーcalico」でマスターの顔を見て「あっ」と驚く。あの15年前の彼こと佐伯文(松坂)である。彼は知らぬ顔をするが、彼女は胸の動悸を抑えることができない。

 更紗はあの事件後、どう生きてきたのか。彼女にとってあの出会いは「唯一かけがえのない安心できる場所」であったが、文にとってどうだったのか。更紗の過去を知る亮の疑いや、文のそばにいる恋人・あゆみ(多部未華子)の存在が、事件後の2人のこれまでの時間を浮き上がらせる。

 画面はダークで、決して明るくないが、更紗と文の再会を通して、2人が懸命に生きてきた波乱を静かに伝える。その裏側に李相日監督の応援歌と世の中への怒りが隠れ、韓国映画「パラサイト・半地下の家族」などのカメラマン、ホン・ギョンピョの映像にそれが込められている。大人になった広瀬と哀切の松坂のコンビがいい。多部の存在感にも泣かされる。子役の白鳥が広瀬似で違和感がない。内田也哉子が文の母親役でそっと顔を出している。

写真説明=広瀬すず(左)と松坂桃李(C)2022「流浪の月」製作委員会

映画『流浪の月』 公式サイト (gaga.ne.jp)

<東盛あいか監督に聞く「境界線を疾走する少女に託して」

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