「毒薬と老嬢」
2022年4月16日~24日
4月16日観劇
1940年代のニューヨーク・ブルックリンを舞台にした翻訳劇、しかも、2人の老嬢をはじめ自分をルーズベルト大統領だと思っている人物やフランケンシュタインのような風貌の犯罪者と、今の世の中ではなかなか登場させにくい人々が繰り広げるブラック・コメディー。それを、歌舞伎や松竹新喜劇などをかけている大阪松竹座、(東京は新橋演舞場、九州は博多座など)で上演するという、ある意味で〝トガった企画〟。これまでにもたびたび上演されていて藤村有弘、桜井センリが老嬢に扮したバージョンもあったよう。私は賀原夏子率いる劇団NLT公演を観た記憶がある。今回、映画版(1944年)を見直したが、当時売り出しだったケイリー・グラントをメインに押し出しているもので、舞台版とは違ったアングルの作品だった。
そんな〝トガった企画〟を和らげる作戦は、老嬢たち主要な役を関西弁にしたこと。久本雅美の鋭いツッコミ、アドリブ、藤原紀香のやわらかな言い回しが受けて、身近に感じることはできた。ただし、それは殺人というテーマそのもののへのブラックな笑いとは違うもので、やっぱり地下で眠る死体を想像するとけっこう生々しい。
出演者では、モーティマを演じた納谷健が切れのいいセリフ回し、動き、ときにはアドリブも交えて才能を感じた。渋谷天笑は難しい役。彼こそ関西弁でもよかったのでは。また、かつて「チビ玉」として人気があった鹿島典俊が、なぜか大衆演劇の一端を発揮。「鬼平犯科帳」のさわりも見せるが、そこには医者役の丹羽貞仁(大川橋蔵の子息が。ここは「銭形平次」も欲しかった(笑)。翻訳劇をベースにしながら、そんな〝遊び心〟も交えて作品。もう少し、その配分を微調整したら、さらにおもしろくなる可能性が。考えてみると、フランク・キャプラ監督の「或る夜の出来事」「素晴らしい哉、人生」「ポケット一杯の幸福」など、日本人でも受けるストーリーはまだまだたくさんある。
歌舞伎・演劇の世界|松竹株式会社 (shochiku.co.jp)