「シラノ・ド・ベルジラック」という作品は、いろいろなバージョンで観てきた好きな物語。思い出しだけでも、映画では、ホセ・フェラーが1950年のアカデミー主演男優賞に輝いた作品、ジェラール・ドパルデュが「付け鼻」なしで演じたものも。さらに現代劇に置き換えた「愛しのロクサーヌ」はシャレた作品だった。また、エドモン・ロスタンがこの物語を創作する姿を描いた「シラノ・ド・ベルジラックに会いたい」。そして舞台では、市村正親、鹿賀丈史によるミュージカル、吉田鋼太郎、幹二朗らのストレートプレイ、それに新国劇の島田正吾よる一人芝居「白野弁十郎」、ジャン・ポール・ベルモンドの来日公演も懐かしい。

そんなシラノにまた新作が誕生した。大きく違うのは、キーポイントが「鼻」ではなく「身長」。ジョー・ライト監督はコネチカット州で上演されたいた同作でシラノを演じていたピーター・ディンクレイジに注目、この映画の主役に抜擢したのだった。戦地での場面などは映像でしかだせない迫力。原作ではロクサーヌが「陣地見舞い」をするのだが、それを割愛(こちらのほうが自然)、シリアスになりがちなところを、ミュージカル仕立て、それも口パクではなく、生歌を使ってゴージャス感、娯楽要素を加えている。

この物語のカギは、ロクサーヌが手紙を読むシーン。日がだんだんと暮れてきて、文字が見えなくなっていくなか、側にいたシラノが手紙を見ることもなく、文言を口にしていく。この短い時間に、ロクサーヌがいつ「手紙を書いた人物」を知るのか?このあたりの2人の微妙な心情の移り変わりが感動を誘う。。今回も「その瞬間」を待ち構えていたのだが、このシーンは2人の変化、そして日没になっていくのを交互に見ながら味わえる舞台のほうが、ショットで自分の意志ではなくそれらを見る映像よりも向いているように思えた。

映画『シラノ』| 大ヒット上映中 (cyrano-movie.jp)

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