「キッチンから花束を」

   2024年5月31日公開

 〈知る人ぞ知る名店〉をこの映画を観るまで、まったく〈知らなかった〉。東京にある〈行列のできる店〉中華風家庭料理「ふーみん」を作り上げた斉風瑞(ふーみん、現在78歳、以後・風瑞と表記)を3年半にわたって追ったドキュメンタリー映画。
 「ねぎそば」「納豆ごはん」「納豆チャーハン」「豚肉の梅干煮」などなど、風瑞が生み出した料理が次々に登場し、これだけでもグルメは必見。それだけでなく、グルメでもない自分もぐいぐい惹きつけられていく。そこには料理や味覚を軸にした温かい人間の触れ合いを感じるからだ。例えば、「ねぎワンタン」のエピソード。風瑞がこれを創作するヒントになったのは、常連だった和田誠の「そばではなくワンタンを使ったら?」という言葉だった。それが店の人気メニューになったいま、和田の妻・平野レミが「この料理で、和田さんが生きている」と感慨深く話す様子は、いつもとはまた違いグっとくる。この他、店の常連たちのコメントも単なる「食レポ」ではなく、風瑞の人柄を的確に語っている。
 そして今、風瑞は店での一線を退いている。両親の故郷・台湾を訪れたり、1日1組限定で料理を提供しているそうだ。欲を言えば、そうした彼女の「いま」を、もう少しじっくりと描かれ、知りたい気がした。ちなみに…。劇中で「親指の爪が横に長い人は料理がうまいんです」と話す風瑞。僕もそうなんですけど、おいしく作れません。
〈内容〉台湾人の両親をもち、日本で生まれ育った斉風瑞(ふーみん) は、 友人の一言から 1971 年、神宮前に小さな中華風家庭料理のお店「ふーみん」をオープン。50 年にわたって愛され続けている。数々の証言を交えて、日本と台湾、そして斉風瑞の家族を3年半にわたり追いつづけた。
〈スタッフ〉監督・菊池久志。語り・井川遥。台湾コーディネーター・青木由香。 音楽・高木正勝。音楽プロデューサー・山田勝也。劇中イラスト・高妍。アートディレクション・GOO CHOKI PAR。照明・入尾明慶、粂川葉。プロデューサー・菊池久志、岩本桃子。ミックス・森浩一。配給・ギグリーボックス メインビジュアル。撮影・若木信吾。制作・エイトピクチャーズ。
5月31日(金)より、テアトル梅田(旧シネ・リーブル梅田)/京都シネマ/シネ・リーブル神戸
ⒸEight Pictures

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