「ミッシング 」

     2024年5月17日

 吉田恵輔監督と言えば、「麦子さんと」のようなほのぼの系から「ヒメアノ~ル」みたいなザラッとした手触りのものまで、様々なタイプの作品があり、熱狂的なファンが居る監督。オリジナル脚本から脚色ものまで、いつもひとひねりした角度から人間を描いて、時代を切り取るエンタメ作品の名手で、本作主演の石原さとみも、吉田監督作品に惚れ込んで出演を熱望していたと言う。
今回は、子供の失踪事件に翻弄される夫婦の姿に、取材するローカルテレビ局の記者の視点を絡めた人間ドラマを、オリジナル脚本で描き上げた。人間性に優れた徳の高い人間達だけの話ではなく、愚かさや、いじましさも持ち合わせている、ごく普通の庶民が悩み苦しむ姿を表現し、悲劇的な事件が彼らの人生を襲う様子を捉えている。
舞台はとある町。子供が失踪して3ヶ月が経つ夫婦が、ジリジリとした日々を送っている。街頭でビラを配り、地元テレビ局の記者・砂田(中村倫也)の取材に応じるが、手がかりは何も掴めない。それどころか、ネット上で誹謗中傷されるようになり、夫婦の間にも小さな溝が出来る。事件をめぐって、警察、マスコミ、という2つの権力が描かれるが、沙織里がネット上で、保護者としての責任を問われ、誹謗中傷されるシーンを通して見えてくるのは、大衆という第3の勢力だ。
卑近な例だが、都市対抗野球で、今年からビデオ判定の対象範囲が広がるというニュースが5月11日に流れたが、その理由の一つは、きわどい判定の時の映像が拡散され、SNSなどで審判が非難の対象として祭り上げられるケースがあるからだという。戦争反対などの世論が拡散される効果など良い面があるものの、SNSは興味本位の盛り上がりで人を傷つけるという大罪も犯す。そんな中で主人公はどんな風に立ち直るのか。吉田監督のシナリオはSNS上の大衆に、エキストラ以上の存在感を持たせて描く。
自身も結婚し、心機一転後の映画出演だった石原さとみが、等身大の人物をリアルに演じているのも話題で、吉田監督が〝賭けに勝った〟と公言している。さて、どんな風に勝ったのか?青木崇高ら共演者の、受けのお芝居も含めて、映画館でぜひご確認を。
(ワーナー・ブラザース映画 マスコミ試写会にて)
(2024年/日本/119分)
配給 ワーナー・ブラザース映画
©2024「missing」Film Partners

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