「パリ・ブレスト 夢をかなえたスィーツ」

     2024年3月29日公開

子供の頃の誕生日や何かのご褒美—甘いお菓子に良い思い出を持っている人は、多いのではないだろうか。本作はそんなスィーツを題材にした素敵な作品だ。
理由あって児童養護施設で暮らすヤジッド。灰色の日々をやり過ごす毎日の中で、思い出すのは、幼いころ里親の家で食べたスイーツの味。好きな菓子作りに没頭する彼は、やがて、高級レストランの見習いになるが、厨房には激しい競争が待ち受ける。
養護施設がある地方都市から生き馬の目を抜くようなパリの高級レストランへ。長距離通勤で修行を積む主人公の毎日の描写には、主人公の高揚感があふれる。モデルとなったヤジッド・イシュムラエン本人も本作に関わっており、劇中でデザートが登場する全シーンを監修している。なるほど本格的なパリ・ブレストや、フォレ・ノワールを主人公が味見するシーンは、本当に美味しそうだ。手ぶれ映像でドキュメンタリー風に撮った厨房は人種のるつぼで、仕事の厳しさや緊張感が映し出された。
養護施設の描写では、ヤジッドに目をかける先生が1人描かれている。2人の交流は本作の中でも目立たない地味なエピソードだが、「才能を伸ばしなさい」とヤジッドの背中を押す台詞には善意が溢れ印象的だ。厳しい中にも、理解者を得ながらステップアップしていく青年の話でもあり、本作は監督から若者たちを励ますエールでもあるのだろう。監督はこれが長編第一作のセバスティアン・テュラール。TikTokで多くのフォロワーを持つ映像クリエイター、リアド・ベライシェを主演に、実在の人物を描いたサクセス・ストーリー。パティシエ版「ロッキー」の登場である。

(2023年/110分/フランス)
配給 ハーク
©DACP-Kiss Films-Atelier de Production-France 2Cinema

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