第15回 京都ヒストリカ国際映画祭
      2024年1月23日~28日、京都文化博物館

第15回 京都ヒストリカ国際映画祭が1月23日から28日までの6日間、京都文化博物館で開かれた。ヒストリカ・フォーカス上映作品として『チャーリーとチョコレート工場』『十三人の刺客』など8本。ヒストリカ・ワールド上映作品として『スカーレット』『Filip』など4本。その他に、イタリア文化会館との連携企画など、それぞれ、映画監督やプロデューサーらゲストを招いたトークショーが開かれた。
最終日に上映されたポーランド映画『Filip』はポーランド出身の作家レオポルド・ティルマンドが1961年に出版した小説を原作にした、歴史ドラマの問題作。来日して『Filip』の解説をしたのは、ポーランドのNNW国際映画祭プログラムディレクター、スワヴォミール・チォク氏。京都ヒストリカ国際映画祭が、歴史をテーマに映画産業の振興を目的としているのに対して、NNW国際映画祭はポーランドの文化と歴史を守るという目的を持っていて、傾向の違う映画祭だが、連携企画として今回の上映が実現した。
チォク氏は上映後に登壇し、原作者のティルマンドは、自著が検閲されるのを嫌って自由な表現が出来る環境を求めてポーランドからアメリカに移民した作家で、特長として、必ず自分の経験を小説の中に投影している、と語った。本作はティルマンドの小説を公式に映画化した初の作品だが、制作費が高く、最終的にはティルマンドの大ファンだったポーランドTVのCEOが資金援助することになったと言う。メガホンをとるのは、アンジェイ・ワイダ監督の『カティンの森』『ワレサ 連帯の男』『残像』のプロデューサーでもあるミハウ・クフィェチンスキ監督。主演のエリック・クルム・ジュニアはポーランドの売れっ子なのだが、今回のような歴史ものには殆ど出ていない。日本で配給されるポーランド映画は歴史ものが多いので、残念ながら日本の観客が眼にする機会は少ないと思うが、Netflixなどで今後、彼の姿を見る機会はあるかもしれない。今、ヨーロッパ映画では何カ国かで制作し、劇中でも多言語が使われるケースが増えている。本作の中にもフランス人俳優やドイツ人俳優が出ているし、主演のエリックも言語のスキルが高い俳優で、ポーランドなまりのドイツ語を話すシーンがある。戦争が始まる前はポーランドの若者は、第1言語としてフランス語、第2言語としてドイツ語を学んでいたが、現在は英語が人気だ、などと語った。
世界で2つの戦乱が始まり、日本でも今、戦後を舞台に、戦争でいかに人間の人生が変えられてしまうかをエピソードに取り入れた映画『ゴジラ-1.0』などがヒットしている。戦争への関心が高まりを見せる中、『Filip』はタイムリーな上映だった。特に劇中で、主人公が「偉大な祖国には、偉大な犠牲が必要だ」とつぶやくシーンは印象的だ。これは当時、ドイツで公的によく使われていたスローガンなのだろうか?と会場で伺うと、チォク氏は「長く使われていたスローガンです」と即答してくれた。
【スワヴォミール・チォク氏】「〝偉大な祖国には、偉大な犠牲が必要だ〟は長く使われていたスローガンです。ポーランドにはロマンチシズムの伝統があり、歴史や文学にも出てきますし、ヨーロッパでは19世紀のロマンチシズムの中にもあったもので、こういった感覚が(『Filip』の舞台となった時代の)ドイツにもあったわけです。ドイツは小国からスタートし、ポーランドはこの100年ほど独立に向けて闘っていましたが、このロマンチシズムが復興したのが19世紀で、社会にそういった風潮がありました。この、ロマンチシズムは魅力的ですが危険でもあります。たとえば、ロマンチシズムで自分の人生、時には自分の命を犠牲にしますが、つぐなわれるとは限りませんからね。私がこれまでに作った映画の中でも、戦時中よく使われていた、別のスローガンを引用しています。〝愛は犠牲を要求する〟というもので、愛とは母国に対する愛情を意味します。私の過去の作品では、第2次世界大戦初期を舞台に、独立を勝ち取るためにポーランドのパイロットがイギリスでパイロットとして闘っていた、というものを描いています。これは歴史上、特殊な状況だとは思いますが、これを日本につなげてみると、日本にもパイロットが犠牲になって祖国のために闘って多くの人が亡くなった歴史がありますね。」

(2023年1月28日 京都文化博物館で 文・写真/岩永久美)

『Filip』あらすじ
1941年、ユダヤ系ポーランド人の若者フィリップは、ナチスの迫害を逃れてポーランドのワルシャワからドイツのフランクフルトへ。身元を隠して高級レストランのウェイターの仕事に就く。戦火が拡大する中でフィリップの生活は荒んでいくが、ある女と恋に落ちて・・・。
(2022年/ポーランド/124分)

©TELEWIZJA POLSKA S.A. AKSON STUDIO SP. Z.O.O. 2022

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