「私がやりました」
2023年11月3日公開
権力を悪用したセクシャルハラスメント。日本の芸能界やアメリカ映画界での大物プロデューサーの悪行が明らかになり、エンタテインメント業界を揺るがせているが、フランスも例外ではない。この映画にもそういった出来事が登場するけれど、ストレートに訴えるのではなく、あくまでもそれを発端にしたフランス映画らしいエスプリ(機知、機転)が利いた洒落たドラマ。フランソワ・オゾン監督はこういったジャンルも得意。例えば、代表作の「8人の女たち」は、男性の死体が発見された屋敷にいた女性たちが犯人探しをするなかで、彼女たちのさまざまな想いが描かれている。また、「しあわせの雨傘」という佳作も。舞台を映画化した「8人の女たち」はもちろんのこと、他の作品も、これが演劇にもなる、と思えるような、限られた空間のなかで個性あふれる人々が織りなす人間ドラマ。
この映画もほとんどが、事件現場とヒロインのアパートメント、法廷で展開。1934年に発表された戯曲「Mon crime」にインスピレーションを得て、オゾン監督が発想を膨らませてエンタテインメントに仕上げた、いわば「3人の女たち」。映画の時代設定は1935年ながら、犯罪をおかした?人物も視点を変えるとヒーロー、ヒロインになれる!という、いまにも通じる世間の風潮への皮肉を込めている。このあたり、1920年代、愛人殺しで刑務所に入った女性が人気者になるというミュージカル「シカゴ」と共通する部分もあり、国や時代が違っても同じ風潮があるところもおもしろい。
友人のポーリーヌの「弁護」で、金のためにと証言台に立ち罪も認めたマドレーヌ。そのことでかえって人気が沸騰してスターになっていく。そんな2人が映画館で観るのが「ろくでなし」(1934)で、マドレーヌあこがれの大女優・ダニエル・ダリューが主演。自動車窃盗団を描いたこれもクライムサスペンスだ。そんな2人のところに、「私が真犯人」というオデットが現れる。一件落着しているのに、あえて名乗り出たのには訳がある。マドレーヌが有名になるのを見て、かつてはサイレント映画の大女優だった彼女も「私ももう一度、脚光を」と考えたのだ。劇中では、そんなオデットの代表作が「魔笛」という設定。年輪を重ねた今の姿は「夜の女王」をイメージするが、人気絶頂の頃なら清楚なパミーナ役だったのか?モーツァルトのオペラだが、サイレントだったので、さぞかし美貌が評判だったのだろう。この映画には、そういったキャラクターを裏付けるキーワードが散りばめられていて、それを想像、解読する楽しみもある。
〈ストーリー〉1935年のパリ。売れない新人女優のマドレーヌ(ナディア・テレスキウィッツ)は、著名な映画プロデュー サーから役をもらう引き換えに、やり抱きついてきたプロデューサーを 突き飛ばして帰宅する。ルームメイトの弁護士・ポーリーヌ(レベ ッカ・マルデール)といたところに、「プロデューサーが何者かに射殺された」という報せが入る。容疑者になったマドレーヌは、ポーリーヌの助言でやっていない容疑を認め、「名誉と身を守るため反撃した正当防衛」と主張。「無罪」となり、一躍スターとなる。そこへ、無声映画時代の大女優・オデット(イザベル・ユペール)が訪ねてきて、「真犯人は自分で、マドレーヌたちが手にした富も名声も、自分のものだ」と言い張る…。
監督・脚本︓フランソワ・オゾン。出演・ナディア・テレスキウィッツ、レベッカ・マルデール、イザベル・ユペール、ファブリス・ルキーニ、 ダニー・ブーン、アンドレ・デュソリエ 。配給・ギャガ。2023 年/フランス
©2023 MANDARIN & COMPAGNIE – FOZ – GAUMONT – FRANCE 2 CINÉMA – SCOPE PICTURES – PLAYTIME PRODUCTION
写真=右からマドレーヌ、オデット、ポーリーヌ(すべて役名)