「ぼくは君たちを憎まないことにした」

2023年11月10日から大阪ステーションシティシネマ、TOHOシネマズなんば、京都シネマ、TOHOシネマズ西宮ほかで公開

1500人の観客が集まったフランスのコンサートホールで2015年に起きた過激派組織によるパリ同時多発テロ事件で犠牲になった主婦の夫が翌日、「ぼくは君たちを憎まないことにした」とネットに書き込んだ出来事を映画化した同名作品。アルバトロス・フィルム配給。ドイツ人のキリアン・リートホーフ監督がフランス、ベルギー、ドイツの合作で撮った。過激派によるテロ行為はいつ何処で起こるか分からない。中東パレスチナのハマスによるイスラエル攻撃が、イスラエルの報復反撃を誘っている現実を見れば、この映画のテーマは大事なことで、みんなで考えなければならないと思う。

美しい妻のエレーヌ(カメリア・ジョルダーナ)と、3歳になるメルヴィル(ゾーエ・イオリオ)と幸せに暮らしているアントワーヌ(ピエール・ドゥラドンシャン)がある晩突然、エレーナが出かけたコンサートホールでテロ事件に巻き込まれたことを知らされるところから残酷な物語は始まる。会場は大混乱で、エレーヌがどうなったか分からず、現場のホールに行ってもどこかの病院に運ばれているというだけでアントワーヌは姉夫婦らと警察と周辺の現場を駆け回る。

一日が経過し、アントワーヌがたどり着いたのは警察の死体置き場で、変わり果てたエレーヌと対面。姉が連れてきたメルヴィルにどう説明していいか分からない。エレーヌとメルヴィルの3人で過ごした幸せだった日々の景色が目の前をよぎって、父は息子に何をどう告げたらいいか分からない。アントワーヌは家のデスクに座り、パソコンのキーを叩く。「ぼくは君たちを憎まない…」と。「ぼくが君たちを憎んで恨みの言葉を投げても、ただ、それは恨みの連鎖になるだけ…」。アントワーヌは淡々とキーを打っているが目には涙をいっぱい溜めている。

被害者は全くの民間人であり、我々は怒りの気持ちをどこにぶつければいいかと、テロ行為の過激派組織を憎むのが普通である。アントワーヌがネットで書いたメッセージが新聞で取り上げられ、多くの人の関心を集め「よく言ってくれた。テロには屈しない!」と、パリ市民の団結力を高め広がっていく。これは実際の話であり、リートホーフ監督は原作に忠実に描いたと言っており、確かにアントワーヌはテロ事件で妻が殺され動揺したし、この報を聞いたパリ市民の同情と応援があっても、彼の強さはただ者ではない。リートホーフ監督は「私と息子は2人きりだ。でも世界中の軍隊より強い」という原作者の言葉を引用して、映画のアントワーヌにメッセージを託している。

今の時期、これは見るべきで、考えるべき映画である。

写真は映画の一場面(C)2022 Komplizen Film Haut et Court Frakas Productions TOBIS / Erfttal Film und Fernsehproduktion

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