「アンダーカレント」
2023年10月6日から大阪のT・ジョイ梅田ほかで公開
恋愛映画で人気のある今泉力哉監督(41)の新作「アンダーカレント」(KADOKAWA配給)が上映されている。豊田徹也の原作コミックを、「愛がなんだ」でコンビを組んだ澤井香織と今泉監督が脚本を共作。前作がヒロインの岸井ゆきのが片想いをする物語だったが、今回はやや年上の真木よう子が主人公で、夫に蒸発されて戸惑う人妻の話である。関口かなえ(真木)は結婚して2年、夫の悟(永山瑛太)と亡くなった父親から引き継いだ銭湯を経営していたが、突然の夫の蒸発で仕事を続けられなくなり一時休業。映画は近所の主婦(中村久美)らの激励の声がけで銭湯を再開するところから始まる。
真木よう子は大森立嗣監督の「さよなら渓谷」のヒロインが印象深く、当時の記者会見で彼女の前に座って取材しドキドキしたのを思い出す。今回はあのときから少し時間が流れ、かなえは普通の主婦。銭湯経営をしながら忙しい時間を過ごし、夫と平凡な毎日を過ごしていたが、彼のまさかの失踪で、今までの自分を振り返る。彼女は誰かに首を締められ、後ろ向きに水の中に沈んでいく夢を見ることがあり、それがどういうことなのかと考えることがあったが、それは漠然としたまま時が過ぎている。
組合の紹介で中年男の堀(井浦新)が住み込みで銭湯に勤めることになり、かなえの新たな日々が始まるが、友人の女性(江口のりこ)に頼んだ探偵(リリー・フランキー)が夫の悟の行方を発見したという知らせを聞いて動揺し、また雇い人の堀の存在に救われ気持ちがあり、夫に会いに行くべきか悩む。やがてかなえは、銭湯のお客さんの子どもが誘拐される事件が起き、25年前に近所にいた幼なじみの女の子が誘拐されて殺された事件がよみがえる。「夫はなぜ失踪し何をしているのか」「雇い人の堀はどういう男なのか」「あの時の幼なじみの彼女はなぜ殺されたのか」
事件を推理するドラマではないが、アラフォー女性の人生のある意味折り返し点としての出来事が主人公の脳裏に重なって巡る。演じる真木よう子が、それをゆっくり自然に迎え入れ、心の中に沈む思いを浮き上がらせようとする。同時に、夫の悟と、雇い人の堀という男2人の心の中の深層風景も見えてくる。これまで人間の生き方を悲喜劇で包んで描く今泉青春映画の中年版。シビアなんだけどどこかで人生を肯定して、少し前を向いているヒロインと、男ども。真木よう子、永山瑛太、井浦新の俳優陣がそれぞれいいですね。
写真は「アンダーカレント」の一場面(C)豊田徹也/講談社 (C)2023「アンダーカレント」製作委員会

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