ドキュメンタリー映画「鯨のレストラン」
八木景子監督インタビュー
大阪の第七芸術劇場で上映中(10月13日まで)、10月13日からアップリング京都、同28日から神戸の元町映画館などで公開
日本のドキュメンタリー映画「ビハインド・ザ・コーヴ」(2015年)で知られる八木景子監督(56)が8年ぶりに新作「鯨のレストラン」(八木フィルム配給)を発表。前作は日本のクジラ漁が反捕鯨活動家によって批判の矢面の時、和歌山県太地町に赴きイルカ(クジラ)漁の地元の人たち、反捕鯨活動家などに直接カメラを向け取材し、その対立事象を探った作品。14年に国際裁判で「日本の調査捕鯨は商業捕鯨の隠れ蓑」とオーストラリアなどに訴えられ敗訴。「それはなぜだ?」という思いが「前作を作る動機になった」と八木監督は吐露する。
一方で、日本のイルカ漁を批判したアメリカ映画「ザ・コーヴ」(10年)がアカデミー賞を受賞したことで、世界的に日本の捕鯨漁に批判が集まっていた。「私は当時、『ザ・コーヴ』について関心がなかったけれど、『ビハインド・ザ・コーヴ』はそれの反論映画という流れになった。結果的に私の映画はモントリオール世界映画祭をはじめ多くの映画祭で上映され、またネットフリックスの配信で世界の人たちに見てもらえることにつながった」
それは大きな出来事だった。反捕鯨活動家の動きも止まった。八木監督はシーシェパードのポール・ワトソンとカンヌ国際映画祭で対面し面会をした。それでも日本は19年、IWC(国際捕鯨委員会)を脱退、31年ぶりに商業捕鯨再開に踏み切っている。日本の鯨食は古く縄文時代から続く日本人の食文化の一部になっており、貴重なタンパク源ともいわれている。八木監督はその後「日本のクジラ産業の長年にわたる凝り固まった習慣、思想と仕組みを目の当たりにし何度も心を折られた」という。ならばどうするか。その答えが映画第2弾「鯨のレストラン」製作ということになろう。
八木監督は「ローマの休日」などで知られるアメリカの映画会社日本支社の元社員で、支社撤退があって退社し「八木フィルム」を設立。「映画は夢のある作品が好き」という。「鯨のレストラン」は、前作では描き切れなかった鯨食の魅力と科学的側面について描いている。クジラ話にとどまらず世界の地球資源を考察する作品である。
東北仙台から東京にやって来て「クジラ料理店/一乃谷」を営む谷光男さんの料理の腕と鯨食の歴史を聞きながら、集まるお客さんたちの鯨談義で構成。クジラとゴリラの合体が「ゴジラ」という映画監督の樋口真嗣監督も登場している。また元ワシントン条約事務局長のユージン・ラプワントさん、ナムコ(北大西洋海産哺乳動物委員会)事務局長のジェネビーヴ・デスポーテスさんにクジラ産業の現状分析などを聞いている。
いずれにしても、八木監督は「クジラ産業を守るべき使命」として映画にやさしく強いメッセージを託している。食としてのクジラと科学としてのクジラの存在を、もう一度考えたいと改めて思う。
写真は「クジラの魅力を映画で伝えたかった」と話す八木景子監督=大阪の第七芸術劇場