「エリザベート 1878」
2023年8月25日

歴史の残る海外の皇族のなか、日本ではオーストリア皇妃・エリザベートの知名度は抜群だ。それというのも、ウィーン発ミュージカルが宝塚歌劇団(1996年初演)、東宝ミュージカル(2000年初演)で繰り返し上演されていて、彼女の波乱に富んだ人生は演劇ファンを中心に知られるようになった。私もその1人で、それ以前にロミー・シュナイダー主演の映画「プリンセス・シシー」(1955年)は観たものの、あまりなじみのない〝王宮もの〟ととらえて印象は薄い。ちなみに、彼女がエリザベートを演じた映画は3部作だが、若き皇后シシー」(1956年)、「ある皇后の運命の歳月」(1957年)は日本では劇場未公開。後に、ビデオで3部作は観たが、その印象は変わらなかった。それが、まず宝塚で初演された時、演劇雑誌の取材で演出の小池修一郎、主演の一路真紀、花總まりにインタビュー。〝役得〟で、日本だけのオリジナル曲「愛と死の輪舞ロンド」」デモテープも聴けたことで、がぜん注目作になった。
そんなエリザベートをヒロイン(ヴィッキー・クリープス)にしたこの映画を試写で観た。興味深いのは、彼女が40歳の「1878年」に絞っていること。1854年に16歳でオーストリア皇帝のフランツ・ヨーゼフ1世と結婚、ヨー ロッパ宮廷随一と言われた美貌で知られた彼女だが、1878年は、当時は「女性の平均寿命」と言われていた40歳。世間のイメージを維持するために、コルセットをきつく締めるなど常軌を逸した努力をしていた。この映画の原題「CORSAGE」はまさしくコルセットの意味。そのものだけでなく、王宮、皇妃という枠に縛られ、窮屈な生活を強いられている状況を象徴している。
この映画で描かれるのは、「プリンセス・シシー」でもなくミュージカル版でもない、抑圧からのがれようと、旅も恋にも奔放に行動する女性。権威を駆使したわがままな勝手という部分も否めないが、その裏にある苦悩も浮き彫りになっていく。前述したように、彼女の生涯をひととおり知っているだけに、「1878年以後」に待つ運命がなんとも残酷に思えた。
そうした物語を、現代の音楽とコラボして描く斬新な手法。ただし、エンドロールでのエリザベートがひとり舞うシーンの、「ヒゲ」は私にはなんとも意味不明であったが…。
【STORY】ヨーロッパ宮廷一の美貌と謳われたオーストリア皇妃エリザベート。1877年のクリスマス・イヴに40歳の誕生日を迎えた 彼女は、コルセットをきつく締め、世間のイメージを維持するために奮闘するも、厳格で形式的な公務にますます窮屈さを覚えていく。人 生に対する情熱や知識への渇望、若き日々のような刺激を求めて、イングランドやバイエルンを旅し、かつての恋人や古い友人を訪ねる 中、誇張された自身のイメージに反抗し、プライドを取り戻すために思いついたある計画とは…。
【監督】:マリー・クロイツァー 【出演】:、フロリアン・タイヒトマイスター、カタリーナ・ローレンツ、ジャンヌ・ヴェルナー、アルマ・ハスン、マヌエル・ルバイ、 フィネガン・オールドフィールド、アーロン・フリース、ローザ・ハッジャジ、リリー・マリー・チェルトナー、コリン・モーガン 【配給】:トランスフォーマー、ミモザフィルムズ/2022 年/オーストリア、ルクセンブルク、ドイツ、フランス/ドイツ語、フランス語、英語、ハンガリー語/114 分
※この作品については、高橋聡も感想をアップしています。併せて、ご一読ください

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