「クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男」

2023年8月11日公開

クエンティン・タランティーノ。1990年頃、この〝無名の映画監督〟の名前を聞いた時、「変わった名前だな」と思いながらも、なぜかすぐに覚えた。考えてみれば、日本でいう「五・七調」でリズムがいいからかもしれないが…(笑)。一方、デビュー作「レザボア・ドッグス」(1992年)というタイトルは覚えにくく、どんな作風かも未知数だった。ところが、 ワルの中年男の群集劇で、みんなステレオタイプではない型破りの男たちが織り成すドラマはこれがおもしろい!これで一気にタランティーノの知名度がアップした。
それからは彼の名前がブランドにさえなったが、これまでの9作は、あえて違ったジャンル、それもアート系とか文芸大作といったジャンルではなく、「娯楽作品」を追求。「長編映画を10本撮ったら、映画監督を引退する」と公言している。
この映画はそんな彼の足跡を、映画で関わってきた人々(主に俳優)の証言を交えて描いているドキュメンタリー映画。様々な角度から。徹底した「映画オタク」ぶりが描かれていて、楽しい気分にもなる。
〈出演者へのこだわり〉監督になる前はレンタルビデオショップ店員で、役得で映画を見まくっていただけに、「有名スター」だけではなく、「実力のあるバイプレイヤー」にも詳しかった。その一例が、「レザボア・ドッグス」でのマイケル・アドセン。「テルマ&ルイーズ」などに出演していた彼に注目したタランティーノは出演をオファー。ブロンドに髪を染めた暴力的な男を演じた。この映画では、彼の証言が随所に登場するが、監督の指示で、アドリブでダンスすることになるやりとりが、タランティーノ演出の一端を物語っていておもしろい。一方、「パルプ・フィクション」では、「サタデー・ナイト・フィーバー」で一躍人気者になったジョン。トラボルタの違う顔をアピール、再生させた。「使いたい俳優を使う」というシンプルでけっこうハードルの高いポリシーが貫かれている。
〈幅広い作品ジャンル〉アクション映画をはじめ、西部劇(「ジャンゴ 繋がれざる者」「ヘイトフル・エイト」)、スリラー(「デス・プルーフ」)、戦争もの(「イングロリアス・バスターズ」)、ハリウッドの内幕もの(「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」)など、手掛けたジャンルは幅広い。しかも、アクションものでも、アフリカ系アメリカンたちが出演し、映画を楽しむ「ブラックスプロテーション」という、世界的にはあまり知られていなかったジャンルを「ジャッキー・ブラウン」で。そして、ブルース・リーによって脚光を浴びたオリエンタル・アクションものにインスパイアされた「キル・ビル」シリーズと、「映画オタク」は世界中の映画をウォッチング。それは映画だけに留まらず、音楽も…。
「キル・ビル」を観た時に突然、時代劇「修羅雪姫」をほうふつされるシーンが登場し、梶芽衣子が歌う「修羅の花」がバックに流れたのに驚いた。しかも、エンディングソングは、同じく梶が主演した「女囚さそり」の主題歌「怨み節」が。守備範囲の広さに感心する。ちなみに、この効果はいまもあって、梶のレコードはいまも高価で売買されているほど。
全編をとおして、「巨匠」ではなく、人並み外れた「映画オタク」としての視点で描かれている。

監督・脚本:タラ・ウッド(『21 Years: Richard Linklater』)
出演:ゾーイ・ベル/ブルース・ダーン/ロバート・フォスター/ジェイミー・フォックス/サミュエル・L・ジャクソン/ジェニファー・ジェイソン・リー/ダイアン・クルーガー/ルーシー・リュー/マイケル・マドセン/イーライ・ロス/ティム・ロス/カート・ラッセル/クリストフ・ヴァルツ
2019年/アメリカ/英語/101分/カラー/ビスタ/5.1ch/原題: QT8: THE FIRST EIGHT/R15+/日本語字幕: 高橋彩
配給:ショウゲート
© 2019 Wood Entertainment

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