「ふたりのマエストロ」2023年8月18日公開

「ジェーンとシャルロット」で先頃監督デビューした、シャルロット・ゲンズブールの夫としても、監督・俳優としても有名なイヴァン・アタル主演の人間ドラマ。プライドが高く無骨な父と、父との距離感をつかみかねている息子の物語だ。大人になってからの親子関係というものは微妙で、これはシャルロット・ゲンズブールが撮ったドキュメンタリー「ジェーンとシャルロット」にも不思議と通ずるものがあり、2作は公開時期も近く、宣伝としてもちょっと気がきいている。
舞台はパリ。主人公のドニ(イヴァン・アタル)は指揮者として活躍する人物。父のフランソワ(ピエール・アルディティ)も指揮者だが、競争の激しいクラシック界で、2人は同志というよりライバルだ。家庭ではすれ違いの連続で、すっかり他人行儀になっている。
かつては名指揮者だったフランソワも、クラシック界では息子より陰が薄くなっている。だが、人に弱いところを見せることが出来ない彼は、妻のエレーヌ(ミュウ=ミュウ)の前でさえ、カッコつけずにはいられない性格だ。エレーヌはいつもどこかで気を揉んでいて、心安まる時が無い。一方、ドニの方は離婚して次のパートナーとの間に暗雲が立ちこめている。
プライドが高く無骨な父。父との距離感をつかみかねているドニ。ストーリーは、ミラノ・スカラ座の音楽監督の座をめぐって展開するが、ドニとフランソワそれぞれのパートナー達が印象的だ。今年公開された「レジェンド&バタフライ」には織田信長より濃姫の方が、芯の強い人物として描かれたが、歴史に名を残すような男性の周りには、苦労の絶えない女性がつきものなのだろうか?父と息子が意地を張り合う隣で、巻き込まれた妻やパートナーはずいぶんシビアな状況に陥っている。
父を煙たがっていたドニの方も、だんだん父の性格に似てきているあたりは、ドニの意地っ張りな表情のアップで表現。演じるイヴァン・アタルがいい渋味を出し、編集も細やかだ。大がかりな特撮があるわけではないが、家族の葛藤と風刺の精神の中に、私達を引きつける小さなスペクタクルシーンがある。本作のオリジナル脚本は、カンヌ映画祭で脚本賞を受賞したイスラエル映画「フットノート」。

(フランス/2022/88分)

配給 ギャガ

⒞ 2022 VENDOME FILMS -ORANGE STUDIO-APOLLO FILMS

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