〝人権とは何か〟問う
2023年6月9日、沖縄先行公開
7月7日から全国順次公開
シネ・リーブル梅田 7月14日
シネマート心斎橋 7月14日~20日
シネ・ヌーヴォX 9月2日~15日
アップリンク京都 7月14日
シネ・リーブル神戸 7月21日~
シネ・ピピア 8月25日~9月7日
沖縄を舞台に、主人公アオイが夫からの経済的な虐待や暴力を乗り越え、真剣に生きて行く姿を捉えた人間ドラマ。先行公開した沖縄では大ヒットしている。
アオイは17歳。夜はキャパクラで働き、祖母の助けを借りて幼い子供を育てている。親族の中で助けてくれるのは祖母だけだが、その祖母からも見放されそう。キャパクラの同僚、海音とは親友で、いつも精神的に支え合って来たが、夫は職場に出勤したりしなかったり。そんな生活に疲れ果てたある日、アオイは夫に顔を殴られて・・・。
タイトルは、アオイの親友が劇中でつぶやくセリフ「どっか行きたい、遠いところ」から取られている。逃避したくなるほどの現実とは何だろうか。背景にあるのは、沖縄県民の1人あたりの県民所得が2018年度で239万円。2019年度で241万円と、上昇しながらも全国平均より低く、本土との格差が未だ埋まっていない現実があげられるだろう。 しかし平均のみに注目することには問題があり、本作の主人公は平均以下の生活で、統計から見えなくなっている層だと思われる。ドラマの中では、親の世代から何らかの経済的問題を抱えていることが示唆されるが、詳しくは描かれていない。
工藤将亮監督と鈴木茉美による脚本は、アオイの心理描写に重点を置き、ひたすら人権とは何か、と問いかけてくる。沖縄出身で「義足のボクサー GENSAN PUNCH」の主演など、昨今頭角を現してきた俳優・尚弦や、大阪という日本の地方都市を舞台に、市井の人々を描いてきた映画監督・リム・カーワイなどを、脇役として配置していることも、作品全体の質を上げていた。
又、工藤監督は、子育てのためにアオイが買春に走るエピソードを作品に取り入れ、その残酷さにも、一歩踏み込んでいる。現実に存在する、買春という性の搾取をどう描くのか。監督は強い怒りを込めて、アオイよりむしろ、買春する客の醜悪さをクローズアップする。この手法は、A24が配給した「Zola ゾラ」と共通するもので、本作が啓発映画の性格を持つ所以でもある。
本来なら学校に行き、必要な教育を受けている年齢の主人公が、親権を手放すまいとし、社会的孤立を経験する。迷走しながらも光を求める主人公アオイの闘いには胸を突かれる。だがその一方で、令和の時代に、戦後占領期文学のような重さを持つ本作が、なぜ説得力を持ってくるのだろうか。なぜ、第23回東京フィルメックスで観客賞を受賞し、観客に受け入れられたのだろうか。考えずにはいられなくなる1作である。
(2022年/日本/128分)
配給 ラビットハウス
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