ケヴィン校長の挑戦

《関西での作品公開日》
大阪 シネ・ヌーヴォ 2023年6月17日(土)~
京都 京都シネマ 2023年6月23日(金)~
兵庫 元町映画館 順次公開
兵庫 宝塚シネ・ピピア 2023年7月7日(金)~7月20日(木)
兵庫 豊岡劇場 2023年6月30日(金)~7月11日(火)

北アイルランド、ベルファスト市北部にあるカトリック系男子小学校を舞台にしたドキュメンタリー作品。発展から取り残されているアードイン地区で、哲学の授業をする校長先生と生徒の日々が綴られている。校長のケヴィン・マカリーヴィーは、哲学を通して論理的な思考方法を生徒に身につけさせようとしている先生だ。もめ事が起きた時、暴力による解決以外の方法を模索することは、戦争を無くして世界を平和にすることに繋がっていく。しかし、そんな夢みたいなことが本当に出来るのだろうか?監督は、ケヴィン校長と生徒達のやりとりを映していく中で、観る者の懸念を振り払っていく。
若い頃は暴力でものごとを解決していた、というケヴィン校長は、暴力が暴力の連鎖を生むことを身をもって知っている。「意見が違うと仲良くなれないのか?」――彼が生徒に繰り出す問いは大人の心にも重く響く。映像は授業中の生徒達の姿や、校長先生の家庭訪問での光景を描いた、とても和やかなものだ。監督は何気ないシーンの中にも、リアルな子供達の姿を鋭く切り取っている。
映画の背景には、宗派闘争と政治的対立の傷跡が残るアードイン地区ならではの緊張感も漂っている。卒業生の中には、麻薬密売人に転落する者も居るが、プレスリーの大ファンを自認する校長先生のユーモアは、学校を子供達のサンクチュアリに変えている。ジムで鍛えた体は筋肉隆々。まるでマーベル・コミックスのヒーローみたいなのだ。
先生は問題を起こした生徒にも、極めて紳士的に「感情のコントロールを小学校のうちに学んで欲しい」と説く。小さな子供でも、相手に拳を振り上げるのにはそれなりの理由があるのだ。「他人に怒りをぶつけていいのか?」と先生が問えば、模範解答ばかりが返ってくるとは限らない。「やり返さなければ、やられるだけ」と思っていることもあれば、親が家庭で〝ケンカをしたら負けて帰ってくるな〟式のしつけをしている可能性もある。生徒の不安や怒りを探っていくと、家庭や地域の持っている問題に踏み込み、
切り崩していくことになるのである。ホーリークロス男子小学校には、ケヴィン校長以外にも、精神的な母親のようなジャン・マリー・リール先生が居る。本作はジャン・マリー・リール先生の側から、もう一度読み直すことも出来そうだ。
今、私達の多くは、自分の気に入ったSNSをフォローし、自分の気に入った方向性の意見に囲まれて暮らしている。それは暮らしを豊かにしてくれる一方で、ファシズムに繋がる危険も秘めている。自分と反対の意見を聞けるようになり、暴力以外の方法で難題を解決するには何が必要なのだろうか。問い、聞き、論理的な対話を試みるケヴィン校長の草の根の活動と姿勢は、ひとつのヒントである。

(2021年/アイルランド・イギリス・ベルギー・フランス/102分)

配給:doodler 配給宣伝協⼒:エスパース・サロウ 宣伝:リガード

© Soilsiú Films, Aisling Productions, Clin d’oeil films, Zadi

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