「生きる」 大川小学校 津波裁判を闘った人たち

2023年2月18日公開

2011年3月11日の東日本大震災の、その後を捉えたドキュメンタリー。
宮城県石巻市の大川小学校では、津波が学校まで到達し、74人の児童が亡くなり、教職員10人が亡くなった。74人の児童のうち4人は未だ行方不明だという。一部の遺族は訴訟を起こした。このドキュメンタリーは、震災直後から10年に渡って記録された映像を基にして作られている。編集では、きちんと論点整理がなされ、行政側の説明の問題点などが逐一、指摘されていく。情感あふれるシーンは少ない。誰が犠牲になり、どこに問題があったかがだんだんわかってくると、情感に流されない演出の理由に合点が行く。
近年、劇映画の登場人物の背景に、自然災害が描かれるのを目にする。映画によってそれは阪神・淡路大震災のイメージであったり、東日本大震災のイメージであったり、何処とも特定し難い災害のイメージであったりする。それぞれの劇映画の中で、自然災害のイメージは、人物の心象風景として描かれた時に、インパクトを持っているし、わかったような気になる。いいとか、悪いとかの問題ではなく、それを観るたびに気になっていたことがあった。
シナリオの中で語られていくイメージと、自分が持っている災害のイメージとの間には、ズレがある。原点は何だったか。歯がゆくなる。本作を観ているとことにそう思う。大川小学校で子供を亡くした親達の一部は、訴訟を起こしたが、勝訴したからカタルシスを得るという問題でもない。映画の中で、行政の側の説明が始まる。親達は説明に疑問を持つ。質問があがる。次々と疑問が出る。このドキュメンタリーはそんな、親達の視点の集積だ。遺された者の苦しみ。そして、命を落とした者達の恐怖は、はっきりとした輪郭を持っていて記憶に刻まれる。災害の本質を突いたこの映画を忘れないように。この先自分の中で、ひとつの指標になっていくに違いない作品だから。
配給:きろくびと
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