「歌妖曲 中川大志之丞変化」
25日まで新歌舞伎座で上演

中川大志の主演舞台とあって、これまでの新歌舞伎座とは様相が変わって、女性客がほとんど。彼女たちの主な目的は、カッコよく歌う中川の姿なのだが…。作・演出の倉持裕は、その期待を見事に裏切り、それでいて彼のイケメンだけではない魅力を伝えている。
昭和30年代から40年代の日本を舞台に、冒頭に登場するのは「フランケンシュタイン」を彷彿させる、人体改造の実験室。「異形」の主人公が改造によって、生まれ変わろうとする描写に、私を含めて観客は、これはどうなるのか…と期待と不安が交錯させる術中にはまる。フランケンシュタインでもなく、「ノートルダムの鐘」(翌日に観劇した)のカジモドでもなく、バックボーンになっているのはシェイクスピアの「リチャード三世」。弟を溺愛し、自分を疎んじる父親への反発から、スター歌手「桜木輝彦」に生まれ変わり、復讐を図る物語。そのメインストーリーに、当時の歌謡界の暗い部分も描かれて、私などはそちらにも引き込まれていった。
その「三悪人」を演じるのは、池田成志(主人公の父)、山内圭哉(反社会の大物)、福田転球(映画監督)。いずれも小劇場をベースに活動しながら実力が認められていった個性あふれる人々。ある意味では、なんとも贅沢なキャスティングで、彼らがアドリブ?とも思える自然な掛け合いで、「跳んだ物語」に生活感をもたせている。また、フォークトリオ、青春歌謡、山本リンダ風のリズム歌謡など、当時の歌謡シーンが登場するのも私には懐かしい。願わくばせっかく徳永ゆうきが出演しているのだから、ど演歌も聴きたかった。
中川はある意味では「二役」ともいえるのだが、コントラストのあるそれぞれを巧みに演じわける「変化(へんげ)」を見せる。ハッピーエンドで終わるのはなく、アンハッピーエンド。異形の姿で黙礼するにも「定番」ではない。まさに、チャレンジ精神あふれる作品だった。
中川が公開中の映画「ブラック」では、金髪に歯が1つ抜けたチャラい青年を演じていて、ここでも「演技派」ぶりを発揮している。

音楽劇『歌妖曲~中川大志之丞変化~』公式サイト (sanjushi2nd-2022.com)

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