映画「天上の花」
9日からなんばパークスシネマ、シネ・リーブル梅田で公開
片嶋一貴監督に聞く

昭和の詩人、三好達治を主人公にした映画「天上の花」(太秦配給)が9日からなんばパークスシネマ、シネ・リーブル梅田で公開される。昭和の戦争の時代に翻弄されて生きた詩人と彼が愛した女性の波乱の人生を描いた鎮魂歌。「あの時代の男と女の闘いとその愛と恋の挫折は、不穏な現代の閉塞感につながるところがある」という片嶋一貴監督(64)に話を聞いた。
三好達治は大阪出身の詩人で萩原朔太郎を師とし、その妹のアイを愛したことで知られる。朔太郎の娘で小説家の萩原葉子が書いた「天上の花―三好達治抄―」の映画化。「昭和12年頃の戦争の時代の話をやりたいと考えているとき、1966年に発表された原作を見つけた。戦争という時代の大きな波の中で、狂ったような男と女の愛と恋の挫折が描かれている。それは小さな世界だが、現代に繋がるインパクトがあると思った」
三好(東出昌大)が師の朔太郎の家に通う中で、妹の慶子(入山法子)を知りほのかな気持ちを抱くが、彼女は同じ詩人の佐藤惣之助と結婚し失恋。彼も他の女性と結婚するが、佐藤の急死後、「16年4ヶ月あなたを思い続けていた」と慶子に告白し福井県三国町(現・坂井市)で2人だけの生活を始める。「達治は規範の人。自分を押し込めて生きる男で、師の妹という慶子にどこか脅えている。慶子は自由人で規範に屈しない女。2人の10ヶ月の三国町の生活は『決闘』だったように思える」
映画は2人の10ヶ月の激しいやりとりの生活を描き、やがて別れの時が来て同時に戦争が終わるという結末を迎える。「達治は慶子にたびたび暴力を振るうが慶子はひるまない。それはあの時代の日本人が抱えていた男女の心情のようにも見える。思うように生きられない人々。それはさながら現代人の閉塞感に重なり戦争は今も続いているような気がする」
「三好を演じた東出さんは研究熱心で役作りが完璧だった。慶子の入山さんはヒロインの愛憎の世界に飛び込んでくれた」と絶賛。朔太郎に吹越満、佐藤春夫に浦沢直樹、北原白秋の弟に萩原朔美、朔太郎の妻に鎌滝恵利、闇市の女に有森也実がふんしている。脚本は五藤さや香と荒井晴彦。荒井は瀬戸内寂聴と井上光晴を描いた「あちらにいる鬼」も執筆している。
「福田村事件」(森達也監督)などでプロデューサー業も忙しい片嶋監督は今作が10本目の監督作。「今までで一番、枠がはまった中で撮った作品」と手応えを感じている。同作は没後80年「萩原朔太郎大全2022」記念映画。三好達治の墓は大阪府高槻市の本澄寺にあり境内に三好達治記念館がある。
写真は「今までで一番枠があって真正面から撮った作品」と話す片嶋一貴監督=大阪のシネ・リーブル梅田

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