ドキュメンタリー映画「擬音 A FOLEY ARTIST」
2022年12月10日から第七芸術劇場で公開
ワン・ワンロー監督に聞く

台湾のワン・ワンロー監督(40)が音響効果技師のフー・ディンイーさん(70)の仕事を台湾映画の歴史に重ねて描いたドキュメンタリー映画「擬音 A FOLEY ARTIST」(太秦配給)が12月10日から大阪の第七芸術劇場で公開される。これを見ると「録音マンの職人技が作品をいかに支えているかということが分かります」というワン監督に話を聞いた。
映画の製作システムは脚本、監督、俳優がまずあり撮影、録音、美術などの担当がそれに加わり成り立っている。ワン監督は国立精華大学卒後イギリスで脚本を学び、2009年からプロデュースや助監督を経て14年にドキュメンタリー映画「無岸之河」で監督デビュー。今回は2作目になるが「ベテラン録音マンの仕事ぶりを見て、これを多くの人に知ってほしいと思った」と映画化の経緯を明かす。
録音マンの仕事は俳優のセリフの声をとるだけでなく効果音を重ねる作業が加わる。台湾の中央電影公司(映画撮影所)に長く務めているフーさんは音響効果技師といわれる。足音、洋服生地の摩擦音、扉の開け閉めの音など日常のあらゆる環境音を作る。「撮影所のフーさんの部屋はガラクタの山で、ドラムカンからヤカン、女性のハイヒールなどが所狭しと置かれている。彼は作品の映像を見ながら音を作り出し、それに重ねる。効果音がいかに大事かがうかがい知れる」
映画は同じ撮影所で働く多くの関係者のインタビューも入れながら映画製作プロセスの裏側を描き、同時に台湾映画の古典からニューシネマの先駆けになったホウ・シャオシェン監督の「悲情城市」(89年)などの映像を示し解説しているので「台湾の映画史が同時に知られる」という手法になっている。「それだけでなく中国、香港の撮影所にも出かけ、それぞれの録音マンの仕事をのぞいた。SF大作が増えこの部門の範疇が広がったことが分かり、どちらかというとフーさんの仕事が孤立化していくのが切なく映った」という。
映画には台湾のワン・トン監督、香港の監督・女優のシルヴィア・チャン、中国女優のツァオ・レイなどが登場する。フーさんは17年に同国のアカデミー賞といわれる金馬奨で長年の功績を讃える台湾傑出映画製作者に選ばれた。現在はセミ・リタイア中という。担当した映画は「九月に降る風」「ハーバークライシス〈湾岸危機〉」「一分間だけ」「幸福路のチー」など多数。映画、ドラマ1000本近い作品に関わった。
ワン監督はドキュメンタリー3作目「千年一問」を発表し、「次回はドラマか劇映画にも挑戦したい」という。日本映画では今年の金馬奨映画祭で上映された伊丹十三監督の「スーパーの女」「ミンボーの女」などを見て好きになったとほほ笑んだ。
写真は「音と映像のつながりを見てほしい」と話すワン・ワンロー監督(オンライン取材)

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