「愛する人に伝える言葉」
2022年10月7日から大阪ステーションシティシネマほか全国で。
ガンに体を蝕まれた男が、母親と医師に伴走されて闘病する姿を描いた一作。主演のブノワ・マジメルとカトリーヌ・ドヌーブ、監督のエマニュエル・ベルコが、それまでに磨いた技量をフルに使った印象だ。
演劇教師のバンジャマン(ブノワ・マジメル)は、ある日残酷な告知を受けた。この道の権威ドクター・エデは、バンジャマンとその母親にはっきりと、ガンが治せないことを告げる。闘病中も、彼は演劇教師の仕事を続けていく。若い生徒達に演技をつけるバンジャマンは、ひどくやつれているが、指導には力がこもる。生徒の反応もビビット。仕事を続けるバンジャマンを捉えた一連のシーンは、演劇というものが持っている奇妙な力を見せつけ、生きることの面白さを伝えている。
死の恐怖に怯えているのは息子だけでなく、母親のクリスタルも同じこと。若い頃、息子に対して支配的だったことを悔やむクリスタルに、カトリーヌ・ドヌーブが扮している。車で一人になった時の表情の、なんと悲しそうなこと。介護者にしかわからない孤独を描くことで、ドラマが重層的なものになっている。
脚本は、死の恐怖を試練として描き、初めは弱い主人公が、周囲の愛と自分自身の勇気で恐怖を乗り越え、真の主役になる、というハリウッド型ヒーローものに似ている。映画終盤にカタルシスがあるのはそのためか。又、主人公の伴走者ドクター・エデは俳優でなく現役医師が演じたと言う。ドクター・エデを見ていると、人生の最後は医師が「友達」になるかもしれないと思った。演技初心者を一流に混ぜて、ちっとも見劣りさせないエマニュエル・ベルコ監督の、確かな演出力に魅了されるヒューマン・ドラマだ。2021年/フランス/122分
「愛する人に伝える言葉」公式HP (hark3.com)
(C)Photo2021:Laurent CHAMPOUSSIN-LES FILMS DU KIOSQUE