「藤山寛美 三十三回忌追善 喜劇特別公演」
2022年10月1日~23日 京都・南座

〝寛美を知らない子供たち〟が増えてきた。関西の喜劇王と呼ばれた藤山寛美が亡くなってもう32年も経つのだから仕方ないことなのだが…。それを象徴するように、父を継いで喜劇俳優として活躍する藤山直美が主演する「追善公演」もこの公演も今回が最後となった。
幸いなことに、私は〝寛美を知っている〟。駆け出し記者の頃、先輩記者に連れられて彼が「寝泊り」している道頓堀・中座の楽屋を公演後の深夜に訪れたのが最初。疲れているはずなのに、1時間以上も先輩記者と話す(私はもっぱら聞き役)姿に、気迫と気遣いを感じたものだ。その後も、勇気を出して?取材を申し込むと楽屋に招き入れてくれて、その時には必ず「お土産」をもらった。「お土産」というのは物品ではなく、主に「記事になるネタ」。おかげで、久しぶりのテレビドラマ出演の情報(毎日放送制作の「千利休」)ももらったし、もう1つ、父娘の舞台共演も記事にできた。それが1990年2月の南座公演だった。そんなことを思い出しながら、「三十三回忌追善公演」を観た。
まず、寛美が所属していた松竹新喜劇の「えくぼ」を渋谷天外、藤山扇治郎(寛美の孫)らで。昭和時代に作られ上演された作品だけに、女性の「美醜」なども取り上げていて、〝違和感〟もあるが、最後にはしみじみとした人情が漂い、やはりよくできた作品。なかでも、目を見張ったのは〝男まさり〟(これも死語)の嫁を演じた曽我廼家いろは。いつもは可憐な娘役を演じている彼女が、今回は全く違う役柄に挑戦。大学で演劇を学んできただけに、こうした役にも適応して、今後の可能性を感じた。ただ、メイクがやや誇張気味で、最後に自らか夫(扇治郎)が顔の汚れをぬぐう場面が欲しかった。
さて、直美は「はなのお六」に主演。この作品は何度も観ているが、今回は市村萬次郎をはじめとする歌舞伎俳優が武家を、劇団新派の女優が腰元などに扮していて、それぞれの所作に格調があり、これまでとは違う印象も。その象徴が、最後に登場する有馬の殿様。寛美時代から、これは小島慶四郎が持ち役としていて、徹底した白塗りとお六(六兵衛)のツッコミに、噴き出してしまう様子で爆笑をさそっていた。慶四郎が亡くなった後、田村亮も同役を演じ、今回は萬次郎が初役を。これまでと同様に、襖が開いて登場する場面で、お六は「出た!」と発するが、想像とは別の〝ちゃんとしたお殿様〟。軽妙な演技も定評がある萬次郎だが、ここは「踏襲」しないで、気品ある有馬の殿様に。ということで、寛美バージョンとも違い、またこれまでの直美版とも違う作品に思えた。

【南座】藤山寛美三十三回忌追善喜劇特別公演 | 公演情報 | 松竹新喜劇公式サイト | 松竹 (shochiku.co.jp)

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