映画「ストーリー・オブ・マイ・ワイフ」
2022年8月12日からなんばパークスシネマほかで公開

ハンガリー出身の女性監督、イルディコー・エニェディ(66)の新作「ストーリー・オブ・マイ・ワイフ」(彩プロ配給)に遭遇した。2017年に「心と体と」でベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した才媛。デビュー作「私の20世紀」(1989年)でカンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を受賞しているので知る人ぞ知る映画人といえるが、ハンガリー映画といえばタル・ベーラ(監督)しか頭にない身としては、「心と体と」で初めてエニェディ映画を見て感動し、次の作品を待ちかねていたのだった。
主演が「007/スペクター」でボンドガールを、「アデル、ブルーは熱い色」ではカンヌ国際映画祭で俳優として最高賞パルム・ドール受賞という初快挙成したレア・セドゥ(37)で誰からも一目置かれる存在。昨年公開の「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」で2回目のボンドガール出演もあればなお、新作の官能的で切ない物語に期待しない人はいないだろう。
前作「心と体と」は食肉処理をする工場で働く孤独な女性(アレクサンドル・ボルべーイ)がヒロインだったが、今回は1920年頃のマルタ共和国の古風なカフェにやって来る美しいリジー(セドゥ)で、紳士然とした船長を務めるヤコブ(ハイス・ナバー)に初めて逢って結婚を申し込まれるところからドラマは始まる。「最初にカフェに入ってきた女性と結婚する」と友人と賭けをし、何と彼女は笑みを浮かべ承諾するという展開になる。
リジーは帽子を茶髪のロングヘヤーに乗せ笑顔がどこか官能的で、固い職業意識が強いヤコブの相手にふさわしいと思えないが、そこは男の純情で彼女の魅力に惹かれていく。リジーは可愛い妻を演じ、船長の仕事で家を空けても夫の帰りを待っている。いや、そんなはずはないと考えるようになるのに時間はかからない。ある日、リジーの元カレのデダン(ルイ・ガレル)が夫婦の家にやって来る。ガレルは「グッバイ・ゴダール」でゴダールを演じた男優。
エニェディ監督はヤコブのドキドキ感に寄り添うので、リジーの本性が少しずつ剥がれ見えてくる。リジーがそれだけの女だったら初めて逢ったときの笑顔は単なる悪女の微笑みになるだろう。いや、夫の帰りを待つときの妻の心象は時折官能的で、決して彼を拒否しているように見えない。こんな女性に逢えたことはヤコブにとっていい時間だったと思う。エニェディ監督とセドゥがリジーの見えない本性を隠しているような気がする。
ハンガリー、ドイツ、フランス、イタリア合作。
写真=ヒロインのレア・セドゥ(C)2021 Inforg M&M Film Komplizen Film Palosanto Films Pyramide Productions RAI Cinema ARTE France Cinéma WDR/Arte

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