「とんび」
(2022年4月8日公開)
若い人たちをターゲットにした人気コミックの映画化などが多い、いまの邦画界。そんななかで、「おじさんを主人公」にした映画、舞ってました!しかも、重松清の小説をドラマ化したテレビ版は、堤真一(2012年)、内野聖陽(2013年)も見て、どちらも泣けた、それから歳月を経たいま、阿部寛が主演で映画化。こちらも、さらに年輪を重ねただけに、よけいに心にしみた。
阿部は役作りにあたって、「無法松の一生」の富島松五郎を意識したそう。口下手で粗野にも見えるが、純朴。無法松が吉岡未亡人とその子に対するものなら、ヤスは息子・アキラ(北村匠海)への「無償の愛」。父親なら当然のことではあるが、妻でアキラにとって母を自分のせいで亡くしたこともあって、その想いはさらに強い。
それだけに、東京の大学に進学するために、故郷の瀬戸内を離れる時に寂しさを隠して言う「一人前になるまで帰ってくるな」という言葉がぐっとくる。幸いなのは、ヤスには幼馴染や心を慰めてくれる料理屋の女将ら、温かい人々がいること。アキラが、結婚相手を連れれて故郷に帰ってきてヤスに話そうとする場面も胸を打つ。
都会はもちろん、田舎でもだんだんと「孤立」が進む現代にあって、大人にとっては愛おしい〝夢のような物語〟なのだ。