「コーダ あいのうた」
両親と兄との4人家族。ただ1人だけ「耳が聞こえる」女子高生は、〝通訳〟として家族を支え、登校前には漁業を手伝っている。そんなストーリーなので、シリアスな大感動作と思って観ると、いい意味でそれを裏切り、さわやかで軽やかで、それでいて何か所か泣いてしまう、まさに佳作。アカデミー賞作品賞について、いろいろな「最優秀候補」が挙げられているが、私はこの作品と予想する。(ただし、当たるも八卦…)。
もともとは「エール」というフランス映画。それも未見だったので、「コーダ」を観た後に観た。家業が漁業(コーダ)ではなく酪農業(エール)、兄(コーダ)ではなく弟(エール)という違いはあるけれど、同じテイスト。どちらがいいと比較にできないほどで、これもお薦め。ということで、最初にこのドラマを生み出した「エール」に軍配?!
ヒロインの高校生も抜群の美女、というのではなく、着飾りたい年ごろのなか素朴な魅力があふれている。そんな娘を見守る両親がいい。いつもラブラブで、ときには子供たちに叱られるという明るいキャラクター。髭だらけの父親は粗野なようだが、温かく包み込む父性愛が。そして、母親は〝通訳〟してくれる娘に頼る、ちょっとわがままな一面も。この母親を演じているのはマーリー・マトリン。
彼女がかつて出演した映画「愛は静けさのなかに」(1986年)でアカデミー賞主演女優賞を演じいた。ちなみに、「愛は静けさのなかに」の原題は「小さき神のつくりし子ら」という舞台劇。ろうあ学校の教師とそこで働く耳と口の不自由な女性との恋を描くもので、映画ではマトリンと先日に亡くなったウィルアム・ハートが演じていた。また、日本でもたたびたび上演される作品で、、加藤健一事務所公演でも加藤健一、熊谷真実も記憶に残っている。
音楽という聴覚で感動を訴える芸術、エンタメとそれを聴くことができない家族。その対比が、(詳細は書かないけれど)、2か所で見事に描かれていて、ジワリジワリと目が潤む。
映画『Coda コーダ あいのうた』公式サイト (gaga.ne.jp)