「花まんま」
2025年4月25日公開
「読んでから観るか」「観てから読むか」。どこかで聞いたことがあるようなフレーズだが、それがぴったりとハマる。原作は2005年に第133回直木賞を受賞した朱川湊人の「花まんま」。それをきっかけに読んだ人も多いだろうが、幸いなこと?に私は発表されて20年経ったこれまで、未読だった(もちろん、映画を観てから読んだけれど…)。そのおかげで予備知識をほとんど持たずに、兄と妹を軸にしたストーレートな家族ものと思っていたのだが。 結婚が決まって本人はもちろん、兄も「これでようやく、『妹の面倒をみる』という父親との約束を果たした兄も喜びにあふれ、大阪の下町で楽しく暮らしていた。関西出身の鈴木亮平、有森架純らによる自然な関西弁の掛け合いが心地よく、こちらもハッピーな気分にひたっていた
そんな描写に続いて、妹が〝見知らぬ家族〟に囲まれて、結婚報告をしているシーンが登場する。その空気が、親しい親戚、知り合いといたものよりももっと〝アットホーム〟で、なにかのドラマを予感させる。
これこそ、「観てから読んだ」人のもうけもの。小説では、それがなぜか?を子供時代の兄妹によって綴られている。しかし、映画ではその小説を基に、成人した2人はそうした環境でどうなっていったか、が描けれているのだ。つまり、小説と映画は「別物」そして、2つを楽しむとよけいに、感動が増幅されるのは間違いない。
ネタばれになるので、この秘密は明かせないが、なるほど!という巧妙な謎解きの描写があって、非現実的な設定ながら、なぜか納得してしまう。
そして、後半は妹の結婚式が。晴れがましいセレモニー、みんなの笑顔は、誰がそうであっても、思わず「もらい泣き」してしまうが、この映画はそれどころではなかったし、バージンロードをぎこちなく歩く〝花嫁の父〟の姿には涙が止まらなかった。
タイトル「花まんま」は、大切な人に贈る小さな花のお弁当のことを言うのだそうだが、これはお薦めできる「贈り物」だ。
〈ストーリー〉大阪の下町で暮らす2人きりの兄妹。兄・俊樹は、死んだ父と交わした「どんなことがあっても妹を守る」 という約束を胸に、兄として妹のフミ子を守り続けてきた。妹の結婚が決まり、親代わりの兄としてはやっと肩の荷が下りるはずだったのだが、遠い昔に2人で封印したはずの、フミ子の〈秘密〉が今になって蘇り…。
〈キャスト〉鈴木亮平、有村架純、鈴鹿央士、ファーストサマーウイカ、酒向芳、六角精児、キムラ緑子
〈スタッフ〉原作:朱川湊人『花まんま』(文春文庫)。企画協力:文藝春秋 監督:前田哲、
ⓒ2025「花まんま」製作委員会